冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
まるで何かを天秤にかけているようだった。

ルーメンが指摘するのは、黒幕の魔法使いの目的である国の崩壊。
いずれ真実は暴かれる。

『シルドバーニュの聖女は大切にされる』という歴史が偽りだったと知れば民衆の怒りは王家へと剥くだろう。

そうなれば滅亡したエルバ以上の混乱と凄惨な末路が待っているかもしれない。


「痛みはありますが、ベルナルド王太子が制度を糾弾することにより権威を守ることは出来るでしょう」


ルーメンはさらに言った。
先に罪を告白してしまえば、思い描かれていたであろう崩壊の顛末は書き換えられるのだと。

そして一呼吸おいて眉根を寄せる。

「ただしこちらも同様、証言だけでなく物証も必要ですが……」

ヒストリアはラキュウス辺境伯を見つめていた。

確かにルーメンの言う通りだ。
仮にロイドとの繋がりを証明しても、国が谷底の真実を容認していたことを神殿側から明るみにされれば国に対する不信が昂まる。

互いに抱えている爆弾を誰がいつ投下するのか、それを見誤ってはいけないのだ。

ロイドと神殿、そして彼らの心を玩び糸を引く幻覚の魔法使いが、どこまで谷底の真実を引っ張って隠すつもりか、その策略は誰にも分からない。

ラキュウス辺境伯は黙っていたが、暫くして意思を固めたように口を開いた。

「分かった」

短い言葉は重く響く。
それは、辺境伯がこれまで自身で真相を糾弾せず、黙秘に徹していた態度が国の権威を守るためだけの行為でなかったことを証明していた。

「……証拠を得るには神殿から記録を入手する必要がある。神殿を襲えば、私は反逆者として扱われる可能性があるだろう……」

だが次の瞬間。

「それでも構わん」

鋭く目を上げ、ヒストリア達に宣言した。

「国の崩壊を目前にして沈黙は許されない。――正すべきものを正す、今こそ責務を果たす時だ」

ヒストリアは息をのんだ。
国王自らがラキュウス辺境伯を”変わり者”などと吹聴した意図を理解した瞬間だった。

――この人はきっと、王の器を持っている。

辺境伯が騎士に視線を配ると、騎士は敬意を最大限に示す礼を表し口角を持ち上げ告げた。

「閣下……どこまでもお供致します」

失敗すれば国家反逆者として断頭台行きは確実。
だが今の二人に迷いはない。

ラキュウス辺境伯が深く頷き、鋭い眼差しを再びヒストリア達へ向けて問う。

「お前たち、ベルナルド王子を説得し無事に王宮へ届けることは出来るか。可能であるならば、証拠は私が責任をもって奪取すると約束しよう」

神殿には聖女廃棄の記録の控えが残っている。
一番近い廃棄場であったディート地区の神殿を襲撃し奪取し、それを王宮まで届けると言うのだ。

時間を考えれば二手に別れ行動すべきというラキュウス辺境伯の考えにルーメンは賛同した。

ルーメンとヒストリア、ユリアン達は先に国王と女の遺体を回収し、ベルナルド王太子の説得をする。その間にラキュウス辺境伯は私兵を伴い、神殿を襲撃し証拠を得るというものだった。

期限はロイドとシェリル王女の婚礼の儀が終わるまで。
それまでに合流し、糾弾する。

失敗は許されない。


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