冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
――――ヒストリア達は辺境伯より預かった地図を広げ、目的地を再度確認していた。

「やはりワルム山脈付近の森林か……」

ルーメンがユリアンの証言を擦り合わせ導き出したのはその場所は、シルドバーニュ西部にあたる。

「たぶん……あそこは人がこない場所だから……」

隣接するアルタイル国との国境に聳えるワルム山脈にはドラゴンの巣穴があるため確かに人が寄り付かず、集落もない。

走馬灯のように断片的に繋がっているという記憶にユリアンは若干自信がない様子だったが、しかし考えたあとで言った。

「でも近くまでいけば分かるから、大丈夫だよ。少し離れていて」

ユリアンはその華奢な身体を、一瞬にして白金の鱗をもつドラゴンへと変え大きく翼を広げた。

「すごい……こんなこと、本当に出来るのね」

荘厳な出で立ちに圧倒されヒストリアは思わず声に出して呟いていた。
そんなヒストリアの姿をルーメンは横目で見たあと、視線を足元へと向ける。

「ヒストリア、やはりさすがにその恰好ではドラゴンの騎乗は厳しいな。ユリアン、鱗を一枚貰うぞ」

言えばルーメンはユリアンに呼びかけ、黄金色の瞳が瞬き低姿勢を取ったのを見て剥ぎ取った。
そしてあの時のように口許へあて囁けば鱗はヒストリアの身体の周囲を一周したのち光輝き包み込む。

一瞬にして、ワンピースドレスはヒストリアの身丈にあった白を基調としたラキュウス辺境伯らの兵の装いに似た騎士のような服へと作り変えられていた。

「ありがとう……」
「死体の回収後はベルナルド王太子殿下にも会うからな。さぁ、行くぞ」

元侯爵令嬢であったヒストリアが恥を欠かないよう気を遣ったような言葉と共に促され、ルーメンの手を取りヒストリアはユリアンの背に乗った。

なるべく高い位置を飛ぶようルーメンと打ち合わせしていたユリアンによって、ラキュウス辺境伯の邸はみるみる豆粒のように小さくなってゆく。

風をきり、ものすごい風圧に押し上げられそうになる。

「落ちるぞ。しっかり掴まっていろ」

ルーメンが揺れるヒストリアの腰を掴み、深い影を落とすよう身体に被さった。

「分かってるわよ」

馬に乗って移動した時以上に身体は密着し、背に触れる厚い胸板に包み込まれ、体格の差を感じながら熱の灯る耳を冷やす冷たい風にヒストリアは眉根を寄せる。

掴まっているのが大変なほどの高速で滑空して暫く、ユリアンはシルドバーニュ西部の森林が近くなると少しずつ速度を落とし始めた。

「ユリアン、匂いは見つかりそうか?」

大きな声で呼びかけるルーメンに対し、ドラゴン姿のユリアンが咆哮上げた。
この姿では言葉が交わせないようだが、こちらの言葉は伝わるらしい。
徐々に旋回しながら低空に切り替え降下している。

「このあたりということか。ヒストリア、もっとよく捕まれ」

ルーメンがユリアンの行動に気付き言う。

すると茂みの深い谷合に向けてユリアンは着陸した。
なるべく静かに降り立ったつもりなのだろうが、ルーメンの助言がなければ衝撃で身体が弾かれていたかもしれない。それぐらいの振動だった。

ルーメンに助けられながらユリアンの背を降りてゆく。
二人が降りたのを確認したユリアンもまた姿を戻し、そして走り出しだ。

「あった……」

雨風に晒されて、死後日数の経過した二つの遺体は見るに堪えない姿となり、異臭を放っていた。

国王の方は身ぐるみが剥がされているが毒殺のためか比較的きれいだっが、もう一つの遺体は、臓物が漏れ、骨が砕けているのか手足があらぬ方向に曲がっていた。

「この人……」

ユリアンが呟いた。

視線の先にはあるのは、桃色の髪の女の遺体だった。
その髪色から元は貴族だったのだろうということが分かる。

もしかすると王家主催のパーティーなどで会っていたかもしれないがヒストリアに覚えはなかった。
ユリアンは苦悶の表情で眺めて言った。

「綺麗な人だった。自分は悪くないって言ってた……駆け落ちにお金がいるとか、なんだっけ……身分証が欲しかっただけって……」

遺体は損傷しているが、その人物の容姿が整っていたことは分かる。
駆け落ちと訊いてヒストリアは胸が痛んだ。

そんなことの為に……――――だが、彼女にとっては身の危険よりも優先すべきことだったのかもしれない。

「わたしを怖がって謝る声を思い出した……当然だよね、ドラゴンに威嚇されたら……」

ユリアンは声を震わせ青ざめて言うと、喉元を庇っていた。

「あなたの意思じゃない。ロイドの言葉に操られてた。そうでしょう?」
ヒストリアはそう言ったが、ユリアンの表情は暗いままだ。

洗脳が完全に解けて擬態が解除された時、ヒストリアを見てすぐに謝っていた姿を思い出す。

「……この手に、身体を握り潰した感触が残ってるの……」

ユリアンが肩を震わせ、ヒストリアは身体を抱き寄せた。
ルーメンは二人を静かに見つめたのち言った。

「これ以上は見ない方がいい。王宮内の通行証は俺が探す。ヒストリア、君はユリアンについていてくれ」

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