冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
離れた場所で少し休むように言われ、ユリアンを連れて遺体が視界に入らない場所まで移動し座らせると、か細い声で呟かれた。

「本当に、ヒストリア様だけでも生きててくれて良かった……」

絞り出したような弱弱しい言葉は、ユリアンの心根の優しさが垣間見れる。
ヒストリアも少しは他人を鑑みられるようにはなったが、ここまで他人のことばかり考えるなんて自分には出来ない。

そのせいで苦しんでいる姿はあまりにも辛そうで、深い吐息を零し、それから逡巡したのちに手を握りながら徐に告げた。

「私、実はね……追放されて死にたいと思ったの」
「っ……」

唐突に打ち明けられ、言葉に詰まるユリアンを横目にヒストリアは続けた。

「当然でしょう。無実なのに全員に敵だと思われれて、何もかも失って……でも、こうでもならないと得られないものもあった」

辺境への追放は、実際に自分の価値観を大きく揺るがした。
まさにルーメンとの出会いは、身体的にも心理的にも追い詰められた絶望の先だったからこそ、強く響いたものだったと今になってヒストリアは思う。

「ルーメンや、辺境の人達……もちろんあなたのことも。自分以外の人のことを考えて、こんなに悩んだのは初めてよ。私、あなたみたいに優しくないから」

口角を持ち上げ自虐的に告げればユリアンは大きく首を振った。

「私だって優しくないよ……。自分の罪を軽くするためにヒストリア様が生きてて良かったって、安心してる」

そしてユリアンは縋るようにヒストリアの手を握り返した。

「いいじゃない」
「……え?」

ヒストリアはユリアンの黄金色の瞳を覗き込みながら静かに笑みを浮かべた。

「きっと両方が必要なのよ。そうじゃないと壊れてしまうわ。他人を想う気持ちも、自分が正しいと思う気持ちも。天秤にかけるように人には両方あるのが当然なんだって、私は気付いたわ」

それから茂みの先に視線を移す。
そこに居るであろうルーメンの姿を思い浮かべると自然と目尻は和らいでいた。

「ルーメンのおかげで少しだけ考えが変わったみたい。ここに来なければきっと死ぬまで気付かなかったわ。あなたは少し、他人に傾きすぎね……」

言えばユリアンの視線を感じて、振り返る。
少しの疑問が混じった瞳と交差した。

「もっとロイドのせいにしたって良いんじゃない?」
「ロイドのせいに……?」
「そんな風に考えては駄目かしら」

ヒストリアは自責よりも他責の追求ばかりしていた。
それは愚かな行為だが、それら全てが間違っているわけでないと思うのだ。

「思ってもみなかった……」

ユリアンは大きな丸い瞳を瞬き、それから眉根を寄せた。

「あら、なんだか悪いこと教えてる気分だわ。でも……そうね。自分を許せなくても、あなた一人が抱え込んで壊れる必要はないと私は思うの」

心を縛りつける棘から守るために、必要な時だってある。
手を汚したからといってユリアンがそこまで背負い込むことはないのだと、ヒストリアは確信を持って告げた。

「……ロイドがしたことこそ最低よ。あいつはあなた達の人生踏み躙ってる」

ユリアンが涙を溢し、指を解くとヒストリアの身体に抱きついた。

涙は絶え間なく零れ肩口を揺らす。
嗚咽を漏らして泣き縋るユリアンを抱きしめたまま、ヒストリアは再度決意した。

絶対にアリアも解放してみせる。
二人を自由にするのだ。


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