冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~

王女の皮肉

「……ヒストリア様。王妃様がこのあと時間があれば訪ねてきて欲しいとおっしゃっていますが、いかがなさいますか?」


殿下と入れ替わるように現れたのは王妃付きの侍女だった。

「うるっさいわね!いかがもなにも、私に選択肢などないのでしょう?」

「ではお連れいたします」

感情を挟まない声音はヒストリアの心を逆撫でた。

「アリア、来なさい」

せっかく侯爵家に生まれ大聖女の候補となり、第一皇子であるべルナルド殿下の婚約者になれたというのに世間も皇族もみなヒストリアを否定する。

ヒストリアは自分が置かれたこの状況がもどかしく苛立っていた。
故に侍女を呼びつける声は怒気を孕むものとなったが、アリアは眉一つ動かさず静かに顎を引くと平然とヒストリアに付き従った。

五つ歳上のアリアは唯一名前を憶えている侍女である。

堀の深い顔立ちに健康的な肌と燃えるような緋色の髪を持っている。しかしその色味とは裏腹にどこか殿下に似た冷たい雰囲気を持つ。

性格と容姿が乖離している彼女は相変わらず一切の温もりを感じさせないのだ。

彼女はヒストリアが当たり散らそうがいつだって粛々と仕事をこなす。
侍女として有能なのだろうが、今までヒストリアに付いていた侍女のように顔色を伺ったり萎縮したりといった反応がないのは些かつまらなかった。

唯一褒められる点と言えば姉のエリザベートに対しても態度が変わらないことぐらいだろう。

使用人には珍しく姉に取り込まれていない珍しい人物だった。

とはいえそれも時間の問題だろう。
もしくは既に姉の手のもので全て演技かもしれないとヒストリアは疑っていた。

考えるたびに、やるせない思いから奥歯を軋ませてしまう。

先ほどの会話ももしかすれば密告されるかもしれない。

殿下との険悪な茶会を姉が知ったらさぞ喜ぶことだろう。
その顔がヒストリアの脳裏に浮かんだ。

王妃の元へ向かう途中、王妃付きの侍女が立ち止まった。


「ごきげんよう。ヒストリア様」

「シェリル王女様……」

ヒストリアを呼び止めたのは、殿下の妹であるシェリル王女だった。

殿下との年齢差はわずか三つとヒストリアと同年のこの姫君は、冷徹な殿下と違い天真爛漫な花の君と呼ばれている。

しかし婚約者のヒストリアに対しては、周囲の自身へ評価を利用して顔を合わせるたびに無邪気に嫌味を言ってくる陰湿な女だった。

ヒストリアが渋々といった仕草でドレスの裾を摘み深い礼を見せると、シェリル王女の口許は満足そうに持ちあがる。

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