冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
「……ルーメンと同じタイプだな」
「なんだって?」
ベリルの影響か、ラキュウスは元の冷静さを取り戻していた。
「幻術で作り出したものから離れられない。だから我々にまだ追いついてないわけだ」
静かに告げた。
アリアの探知魔法などは魔法の展開範囲というものに囚われない。
しかし魔法の効果を付与するような術は展開範囲が限られる。
ルーメンは瘴気の研究の傍ら、何かに導かれるように出会った魔法使いらから学んだことがあると言っていた。
まさに幻覚の魔法使いはそれだ。
あの怪物を従え応戦しているからこそ、ラキュウスらを追ってこれないのだ。
ただし地上の二人が持ち堪えている間に限るが。
ラキュウスは外を警戒しているベリルに浄化石が狙われていた理由を明かし、急ぎ聖女の廃棄記録の控えを確認した。
「……なんで俺に話す?」
「リスクの分散だ。逃げきる事に焦点を当てたとしても、やはりあれは手強い……最悪どちらかが王都に着けばいい……」
ラキュウスは魔法使いの言葉を思い出しながら言った。
放っておきたくない、つまり王都に向かわせるつもりはない。そう言ったのだ。
であれば何が起きてもおかしくないのだ。
しかしベリルは言い放った。
「弱腰か。その証拠はあんたが持って行くんだよ。浄化石も一緒にな」
「だからリスクの分散だと……それに浄化石は必要ないだろう」
唐突な物言いに訝しむが、ベリルは極めて冷静に言った。
「神殿の奴らが言ったんだろ?浄化石で王都の大聖女様の力を増幅させようって発想は悪くない。その策を頂こうじゃねぇかって話だ」
ベリルはルーメンの依頼で所持していた浄化石をラキュウスへと差し出した。
まさかヒストリアの力を更に増幅させる装置にしろと言いたいのか。
その提案にラキュウスは納得する一方で、しかし手放しに頷くことなど出来なかった。
「瘴石の採掘のために、ここに必要だ」
現在生成に成功している浄化石はこの一つ。
この国の聖女制度を発展させるために重要な希望なのだ。
そう簡単に実験的に用いるのは避けたい。
「国が乗っ取られりゃ採掘もクソもねぇだろ」
「……これを移動させれば新たに張った結界が解ける」
「今度は人の心配か?採掘現場は引き上げさせてる。それにまだ開拓されてるわけでもねぇ」
「だが……王都に持ち込むことでそれが万が一神殿の手に渡れば?」
なにより王都に持っていけば必然的に神殿の手にいつ渡ってもおかしくない状況を生み出してしまう。
「あんたは必ず証拠と共にヒストリアにこれを届ける。敵の手に渡すわけがない」
確かに証拠はなんとしてでも届けるつもりだ。
「わざわざこれを持ち出す価値はあるのか?」
なにより、ヒストリアとルーメンの力だけで十分ロイドに対処できるのではないか、そうラキュウスは期待しているのだ。
だがベリルは剣呑な目つきで浄化石をラキュウスの胸に押し付けた。
「……あんた、自分で最悪を想定して動くつったよな。これは最悪が起きた場合の保険だ」
ラキュウスがレナードに対して諌めた際の言葉だ。
「俺にとって最悪とは思いついた時に行動せず、まぁ次でいいかと先送りにする事だ。思いつきってのは案外当たる。流しちまうと、だいたいロクなことにならねぇよ」
ラキュウスは、自分よりも歳若い男の経験則を語る口振りに、どこか深い後悔が滲んでいるのを感じた。
そして無意識に胸に押し当てられた石を受け取っていた。
溜息を溢し頷く。
「……分かった、いいだろう」
ラキュウスの了承を確認したベリルは視線を外へ向けた。
少しして空に銃声が響く。
ドラゴン姿のユリアンに乗っているであろうニッカのものだ。
「おい、来るぜ。ついでにこっちのバケモンも」
魔法使いはレナードとゼノを倒したのか、異形の怪物を使い強引に塔を登ってきている。
それを見たベリルがすかさず拳銃を下ろし銃口を向けると一発、怪物に当たり動きが鈍る。
「ここまで時間を稼げたなら、こいつは意外と見掛け倒しかもしれねぇぞ」
ラキュウスに向かって言うなりベリルは外へ身を乗り出した。
「まさか飛び移る気か?術を解かれたら落下して死ぬぞ!」
距離を測っているのかこちらに見向きもしないベリルは視線を怪物に留めたまま言った。
「ラキュウス辺境伯。……思い出したことがある。エリザベートは神官の助言でハープを弾くようになった。なにか関係があるかもしれねぇ、ヒストリアに伝えてくれ」
「待て、ベリルっ!!」
唐突に告げるなりベリルは直ぐそこまで迫る怪物に銃弾を二発打ち込んだあと、魔法使い目掛けて飛び降りた。
ラキュウスは絡れ込みながら暗闇に落下してゆく様に目を瞠り、しかし風圧を受け顔を挙げる。
「閣下!!」
ニッカの声だ。残ったのは自分達だけか。
ユリアンと共に現れた姿に一瞬迷ったが、ラキュウスは眉根を寄せた。
今は王都に向けて進むしかない。
「なんだって?」
ベリルの影響か、ラキュウスは元の冷静さを取り戻していた。
「幻術で作り出したものから離れられない。だから我々にまだ追いついてないわけだ」
静かに告げた。
アリアの探知魔法などは魔法の展開範囲というものに囚われない。
しかし魔法の効果を付与するような術は展開範囲が限られる。
ルーメンは瘴気の研究の傍ら、何かに導かれるように出会った魔法使いらから学んだことがあると言っていた。
まさに幻覚の魔法使いはそれだ。
あの怪物を従え応戦しているからこそ、ラキュウスらを追ってこれないのだ。
ただし地上の二人が持ち堪えている間に限るが。
ラキュウスは外を警戒しているベリルに浄化石が狙われていた理由を明かし、急ぎ聖女の廃棄記録の控えを確認した。
「……なんで俺に話す?」
「リスクの分散だ。逃げきる事に焦点を当てたとしても、やはりあれは手強い……最悪どちらかが王都に着けばいい……」
ラキュウスは魔法使いの言葉を思い出しながら言った。
放っておきたくない、つまり王都に向かわせるつもりはない。そう言ったのだ。
であれば何が起きてもおかしくないのだ。
しかしベリルは言い放った。
「弱腰か。その証拠はあんたが持って行くんだよ。浄化石も一緒にな」
「だからリスクの分散だと……それに浄化石は必要ないだろう」
唐突な物言いに訝しむが、ベリルは極めて冷静に言った。
「神殿の奴らが言ったんだろ?浄化石で王都の大聖女様の力を増幅させようって発想は悪くない。その策を頂こうじゃねぇかって話だ」
ベリルはルーメンの依頼で所持していた浄化石をラキュウスへと差し出した。
まさかヒストリアの力を更に増幅させる装置にしろと言いたいのか。
その提案にラキュウスは納得する一方で、しかし手放しに頷くことなど出来なかった。
「瘴石の採掘のために、ここに必要だ」
現在生成に成功している浄化石はこの一つ。
この国の聖女制度を発展させるために重要な希望なのだ。
そう簡単に実験的に用いるのは避けたい。
「国が乗っ取られりゃ採掘もクソもねぇだろ」
「……これを移動させれば新たに張った結界が解ける」
「今度は人の心配か?採掘現場は引き上げさせてる。それにまだ開拓されてるわけでもねぇ」
「だが……王都に持ち込むことでそれが万が一神殿の手に渡れば?」
なにより王都に持っていけば必然的に神殿の手にいつ渡ってもおかしくない状況を生み出してしまう。
「あんたは必ず証拠と共にヒストリアにこれを届ける。敵の手に渡すわけがない」
確かに証拠はなんとしてでも届けるつもりだ。
「わざわざこれを持ち出す価値はあるのか?」
なにより、ヒストリアとルーメンの力だけで十分ロイドに対処できるのではないか、そうラキュウスは期待しているのだ。
だがベリルは剣呑な目つきで浄化石をラキュウスの胸に押し付けた。
「……あんた、自分で最悪を想定して動くつったよな。これは最悪が起きた場合の保険だ」
ラキュウスがレナードに対して諌めた際の言葉だ。
「俺にとって最悪とは思いついた時に行動せず、まぁ次でいいかと先送りにする事だ。思いつきってのは案外当たる。流しちまうと、だいたいロクなことにならねぇよ」
ラキュウスは、自分よりも歳若い男の経験則を語る口振りに、どこか深い後悔が滲んでいるのを感じた。
そして無意識に胸に押し当てられた石を受け取っていた。
溜息を溢し頷く。
「……分かった、いいだろう」
ラキュウスの了承を確認したベリルは視線を外へ向けた。
少しして空に銃声が響く。
ドラゴン姿のユリアンに乗っているであろうニッカのものだ。
「おい、来るぜ。ついでにこっちのバケモンも」
魔法使いはレナードとゼノを倒したのか、異形の怪物を使い強引に塔を登ってきている。
それを見たベリルがすかさず拳銃を下ろし銃口を向けると一発、怪物に当たり動きが鈍る。
「ここまで時間を稼げたなら、こいつは意外と見掛け倒しかもしれねぇぞ」
ラキュウスに向かって言うなりベリルは外へ身を乗り出した。
「まさか飛び移る気か?術を解かれたら落下して死ぬぞ!」
距離を測っているのかこちらに見向きもしないベリルは視線を怪物に留めたまま言った。
「ラキュウス辺境伯。……思い出したことがある。エリザベートは神官の助言でハープを弾くようになった。なにか関係があるかもしれねぇ、ヒストリアに伝えてくれ」
「待て、ベリルっ!!」
唐突に告げるなりベリルは直ぐそこまで迫る怪物に銃弾を二発打ち込んだあと、魔法使い目掛けて飛び降りた。
ラキュウスは絡れ込みながら暗闇に落下してゆく様に目を瞠り、しかし風圧を受け顔を挙げる。
「閣下!!」
ニッカの声だ。残ったのは自分達だけか。
ユリアンと共に現れた姿に一瞬迷ったが、ラキュウスは眉根を寄せた。
今は王都に向けて進むしかない。