冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
「ーーこれが約束の全てだ」
ベルナルドから語られたのはシルドバーニュの繁栄の裏にあった暗い歴史だった。
「聖印は、人柱の印……」
ヒストリア絶句した。
聖印を大聖女の最高位の存在として名誉あるものと考えていたこと自体、根底から覆されたのだ。
かつてシルドバーニュは聖女を家畜のように管理し、酷使し続けていた。
印など、本当にただの記号に過ぎなかった。
国を呪おうとした大聖女の恨みと救済が入れ混じる約束に目眩すら覚え、ヒストリアは双眸を伏せる。
するとベルナルドは呟くように言った。
「私は、試練とは、平民出のイクシス様のことだと考えている……」
時代と記憶が塗り変わり、大聖女の称号は貴族にとって名誉となっている。
この時代に平民出の大聖女がどのように扱われるのか、きっと試されたのだろう。
そう言いたいのだ。
「……実際、イクシス様の力は弱まっている。そしてあろうことか我々は君を辺境に追放した。これもなにかの因果で繋がっている」
ベルナルドはまるでヒストリアの断罪すらも試練の結果によるもので、この時代にロイドが現れたのも全て繋がっていると感じているようだった。
ますます気は重くなり、ヒストリアは溜息を溢すと視線を上げた。
「そのような約束がありながら、聖女の破棄までされて……王家も神殿も火に油を注ぐようなことをよく出来ましたね……」
信じられないと言わんばかりに眇めた視線をやればベルナルドは短く頷いた。
「その通りだな。しかし当時の王族以外は記憶を改竄されている上に、もう何代も前のことだ……力を失った聖女はただの民だと無理矢理こじつけたのだろう……」
考えれば考えるほどヒストリアの中に生まれた憤りは燃え上がる。
破棄制度のことだけではない。
ベルナルドの言うように、ヒストリアの追放が途方のない因果の一つなど認めたくない。
大聖女と王家の約束が破られた結果の一過程で、国が破滅へ向かう歯車のひとつなど、絶対に……なぜならヒストリアは確信していた。
ルーメンとの出会いは人生を再定義する希望の出会いだったのだ。
過去の因果など知ったことか。
人の都合で人生を決められるのはおかしい。
自分は今、再起するためにここにいるのだから。
「……殿下。公爵邸で仰られた私達の今後のことですが……この一件が片付きましても殿下とは婚姻いたしません」
ベルナルドはさほど驚く様子はなく、ヒストリアの言葉を待った。
「今さら王家が約束を守っても仕方がないだとか、そういった理由ではなく……私達がすべきは、過去の約束に縛られない方法を……聖女に頼る浄化のみでない未来を作ることではないですか?」
「確かに……君の言うとおりかもしれないな……」
「それに私、誰かに人生を決められたくはありません。ロイドを諌め、その後は自分のためにルーメンと聖女の未来を作ることにします」
ヒストリアはそう宣言すると少しだけ気持ちが晴れやかになった。
自分は健気で純真無垢な聖女ではない。
自由も未来もすべて思い通りに手に入れてみせる。
「ーー殿下、ヒストリア様。そろそろ城下に入ります」
外から声がかかった。
ヒストリアは波乱の予感を覚えてながら眉を顰める。
未だロイドが自分たちを泳がせている目的がルーメンにあることなど、今はまだ知る由もない。