冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
ヒストリアは長い息をつくと涙をぬぐい、手を伸ばして黒パンを掴んだ。
ちぎろうとすれば想像通り固く、ポタージュに付けて食べてもやはり白パンの生地には程遠い食感である。けれど空腹の腹に噛み応えのある黒パンはするすると入っていった。
干し肉のソテーもヒストリアの希望通りに柔らかく調理されている。味を評価するよりも黙々と口へと運んだ。
「君に興味がないと言ったが、話したければ何があったか聞いてやるから話せばいい」
ヒストリアが食事を始めたことで魔法使いは声を掛けてきた。今さら何を、と思ったが、しかし昨日よりも落ち着いた頭が罵倒の言葉を選ぶことはなく、代わりに拗ねた口ぶりへと変わる。
「変な男。今日から家を建てるんじゃないの……」
「予定を変えるのはかまわない」
「なんで優しいこと言うのよ……実験に協力して欲しいから世話を焼くって、こういうことなの」
長い日々のなかで、ヒストリアは心のどこかで大聖女の印があれど自分が無価値な存在だと考えるようになっていた。しかし皮肉なことに、必要としてくれたのは、家族でも、ベルナルド王子でも、国でもなく、追放先で出会った風変わりな魔法使いだった。

「あぁ。君にはその価値があるからだ」

復讐に加担する気のない意思とは裏腹に垣間見られる魔法使いの理解しがたい行動は新鮮で、絶望のあとに与えられた必要とされる喜びは甘く胸に響いた。
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