冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
怒鳴られたことで羞恥にまみれ城を出たその日、神官の態度について言いつけようと息巻いていたが、父が拳銃で肩を打たれるという事件が起きていた。
いつもならば玄関先で父とウィラー夫人が共に出迎えてくれるはずが、小汚い恰好をした壮年の大男がタウンハウスの邸の扉前で父の補佐を務める家令のリュートスと揉めているようだった。
門の手前で止まった馬車を訝しみ小窓を覗くとその様子が見え、ヒストリアは興味本位から従者を連れて馬車を降りた。
近くから様子を窺うと、どうやら男の方が一方的に過熱しているらしい。大声で怒鳴りつけているかと思えば縋るように情に訴える言葉に対し、リュートスは冷静に宥めようと試みているが諦めない男に対し苦々しい顔をしていた。
リュートスはフランドール家一番の古株である。数年前に書記官や会計官までも刷新されたなか、唯一残った人物で、片眼鏡を掛けた白髪の老齢の男性で冷たくいつも難しい表情をしている。
父曰く有能だから残しているということだったが、リュートスには珍しく男の対応に手間取っている様子だった。
「まだ居たのか」
痺れを切らしたのか、父が扉から出てくる。
その事に一段と声を大きくして押しかけてきた男が縋るように言った。
「お願いします、領主様!私は侯爵領のエール地区で養鶏所を営むジルと申します!うちが潰れればフランドール侯爵領の供給にも影響が出るはずです!どうかうちの養鶏所を救ってください。再建資金のための貸与を!どうかっ!」
「エール地区の養鶏所……あぁ、あの中規模の養鶏所か。何度か嘆願書を送ってきていたな」
「そうです!読んでくださっていたのですね、ありがとうございます!領主様のご命令通り、一部の鶏だけでなくすべて殺処分いたしました!そんな状況ですので、再建のための貸与をいただきたくはるばる王都まで来ましたっ……どうかお願いします!」
「公衆衛生と治安のために必要な選択だった。他の農場に被害が出る前に対処できてよかったよ。だが再建に関しては私は関わらない。君がまた養鶏所をやりたいなら、自分で頑張ればいい」
「そんな……全て殺処分しろと領主様が命令したから、うちは困っているんですよ!」
「領民や他の農場に影響が出ては税収に関わるから命令したまでだ。それに供給への対策はもう考えてある。別の養鶏所に投資をすることにした。感染があった場所を再建するよりも影響のなかった養鶏所に金を回す方がいい。これ以上門前にいると邪魔だ。即刻立ち去れ」
「……問題のない鶏まで殺させて、納税も厳しい今、私の一家や雇人に死ねと言うのかあんたはっ!!」
激しい怒声と共に、ジルと名乗る男はいきなり拳銃を取り出しヒストリアの父に向って打った。
銃声が響き、父が倒れる。
近習騎士が制止する間もない一瞬の出来事にヒストリアは身体が凍り付き、邸からはウィラー夫人と姉のエリザベートが駆けつけた。ジルは銃を持って震えており、ウィラー夫人が「早く医者を!」と叫ぶ。
どこに当たったのだろうか、ヒストリアのところからは見えない。
一方、エリザベートは銃を持ったまま再び身構える男の姿を見て瞠目していた。
「……あなた、ジル?」震える声のエリザベートに対し、ジルは再び父へ拳銃を向ける。
「エリザベートお嬢様……私は、俺は……すみませんっ!こいつを殺さなきゃやってられねぇ、奥様が亡くなってからうちの領は課税が増えて、俺は養鶏所も失って、もう、もう無理なんだ!!」
「だめよ!!こんなことをしても変わらないわ!ねぇ、マーサとベリルは?」
エリザベートが叫ぶとジルは一瞬怯み、その隙に盾を持った護衛の兵士たちがぶつかるように取り押さえた。
いつもならば玄関先で父とウィラー夫人が共に出迎えてくれるはずが、小汚い恰好をした壮年の大男がタウンハウスの邸の扉前で父の補佐を務める家令のリュートスと揉めているようだった。
門の手前で止まった馬車を訝しみ小窓を覗くとその様子が見え、ヒストリアは興味本位から従者を連れて馬車を降りた。
近くから様子を窺うと、どうやら男の方が一方的に過熱しているらしい。大声で怒鳴りつけているかと思えば縋るように情に訴える言葉に対し、リュートスは冷静に宥めようと試みているが諦めない男に対し苦々しい顔をしていた。
リュートスはフランドール家一番の古株である。数年前に書記官や会計官までも刷新されたなか、唯一残った人物で、片眼鏡を掛けた白髪の老齢の男性で冷たくいつも難しい表情をしている。
父曰く有能だから残しているということだったが、リュートスには珍しく男の対応に手間取っている様子だった。
「まだ居たのか」
痺れを切らしたのか、父が扉から出てくる。
その事に一段と声を大きくして押しかけてきた男が縋るように言った。
「お願いします、領主様!私は侯爵領のエール地区で養鶏所を営むジルと申します!うちが潰れればフランドール侯爵領の供給にも影響が出るはずです!どうかうちの養鶏所を救ってください。再建資金のための貸与を!どうかっ!」
「エール地区の養鶏所……あぁ、あの中規模の養鶏所か。何度か嘆願書を送ってきていたな」
「そうです!読んでくださっていたのですね、ありがとうございます!領主様のご命令通り、一部の鶏だけでなくすべて殺処分いたしました!そんな状況ですので、再建のための貸与をいただきたくはるばる王都まで来ましたっ……どうかお願いします!」
「公衆衛生と治安のために必要な選択だった。他の農場に被害が出る前に対処できてよかったよ。だが再建に関しては私は関わらない。君がまた養鶏所をやりたいなら、自分で頑張ればいい」
「そんな……全て殺処分しろと領主様が命令したから、うちは困っているんですよ!」
「領民や他の農場に影響が出ては税収に関わるから命令したまでだ。それに供給への対策はもう考えてある。別の養鶏所に投資をすることにした。感染があった場所を再建するよりも影響のなかった養鶏所に金を回す方がいい。これ以上門前にいると邪魔だ。即刻立ち去れ」
「……問題のない鶏まで殺させて、納税も厳しい今、私の一家や雇人に死ねと言うのかあんたはっ!!」
激しい怒声と共に、ジルと名乗る男はいきなり拳銃を取り出しヒストリアの父に向って打った。
銃声が響き、父が倒れる。
近習騎士が制止する間もない一瞬の出来事にヒストリアは身体が凍り付き、邸からはウィラー夫人と姉のエリザベートが駆けつけた。ジルは銃を持って震えており、ウィラー夫人が「早く医者を!」と叫ぶ。
どこに当たったのだろうか、ヒストリアのところからは見えない。
一方、エリザベートは銃を持ったまま再び身構える男の姿を見て瞠目していた。
「……あなた、ジル?」震える声のエリザベートに対し、ジルは再び父へ拳銃を向ける。
「エリザベートお嬢様……私は、俺は……すみませんっ!こいつを殺さなきゃやってられねぇ、奥様が亡くなってからうちの領は課税が増えて、俺は養鶏所も失って、もう、もう無理なんだ!!」
「だめよ!!こんなことをしても変わらないわ!ねぇ、マーサとベリルは?」
エリザベートが叫ぶとジルは一瞬怯み、その隙に盾を持った護衛の兵士たちがぶつかるように取り押さえた。