冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
第三章 優しさとは

平民という家畜

「それは置いていく。よかったら気を紛らわすために読むといい……」

そういって魔法使いは聖書を勧めて出かけていった。
残ったヒストリアは特にやることもなく、部屋の中を改めて見渡した。

小さな空間で最低限の物しかなく、がらんとした場所は気にしてみれば砂や埃が目立ち、むかむかとして溜息が零れる。

埃臭いとは気づいていたが、しっかりと不快に感じるほどで、これは活力が戻ってきたという証拠でもあるのだろうが、感覚が戻るというのは厄介だ。

不快は即時に取り除きたい性分であるが、考えた末に魔法使いの言う通りヒストリアは聖書を読み気を逸らすことにした。

初めは朝食を取った椅子に座っていたが早々に尻が痛くなったためベッドへ腰を掛けなおす。こちらは布切れがある分少しはマシになった。


『Luminous 聖女の起原』
第二章に続くのは祝福の歌だ。

起源の聖女が天に捧げたという歌が載っている。
歌詞を指でなぞりヒストリアは思い出したように口ずさむ。
すると周囲が淡い銀色に輝いた。

「本当に印が消えても力はあるのね……」

王城で手当てを受けた時、傷口のむごたらしさから、ヒストリアは大聖女の印を奪われたと同時に力も消滅したものと思い込んでいたが、魔法使いのいう通り力とは無関係だったようだ。

手の甲を見ると火傷痕が残っている。魔法使いの治癒魔法でも傷跡まで綺麗にならないらしい。
おそらく今のヒストリアの手を見て大聖女だと信じる人は居ないだろう。

魔法使いは治癒したと言っていたが火傷痕を見ると、やはり内部に熱がこもっている感覚がある。

意識すると感じる痛みのため指摘された通り神経の記憶によるものなのだろうが、いつまで続くのか少し不安になった。


ヒストリアは聖書を閉じると背を倒しベッドへ寝転がった。

祝福の歌をもう一度口ずさむ。
なんとなく今度は最後まで歌ってみたが、再び淡く輝き始めた光は灯火のようにゆらゆらと揺れ、しかしそれ以上にはならなかった。


結界は聖女の歌によって展開される。

大聖女は祝福の歌を通じて結界を張り、それを維持するために定期的に歌で聖力を供給する。各地の神殿の聖女も同様にして共鳴させ、結界に綻びがないよう厳重に管理されているのだ。

ゆくゆくはヒストリアも大聖女としてその任につき、王宮の神殿で歌を捧げるはずだった。

しかしそれも叶ったかどうかは怪しい。内包されている聖力に反して放出される聖力が芳しくなかったのだ。大聖女の印が顕現してから今まで以上に大きく輝いたことはない。

今代の大聖女である王妃の光はもっと大きく輝いていた。何度か見たことはあるが、王城内に作られた天井の高い神殿一体をいつも眩く照らしたものだ。

当然、大聖女教育でヒストリアに求められていたのは聖力の解放である。

聖力は年齢に応じて安定してくる。

莫大な聖力を持っていたとしても幼少期は出力が安定しないといった事例は過去にも多々あり、成長し教義を深めていけば安定してゆくものだと云われていたが、ヒストリアにその兆しはなかった。

さらに十八にもなれば現大聖女の補佐役を務めてもおかしくない年頃なのだが、補佐役などとても出来るような状況ではなく追放される最近まで、王妃教育と並行して聖女教育を受けていた。

そのため王宮の中枢で働く神職者達からは何度も渋い顔をされたものだ。

相変わらずの淡い光を見て、ヒストリアは王妃の言葉を思い出した。


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