冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
結局、父は肩を打たれたが致命傷には至らなかった。
包帯を巻いた痛々しい姿にヒストリアは心を痛め、父の寝室を訪ねては花を飾り見舞うとヒストリアを片腕で抱きしめてくれる。
「お父様……まだ傷は痛みますか?」
「心配をかけてすまないね、ヒストリア。お前はなんて良い子なんだ……それに比べて、あれは……」
父を襲ったジルはすぐに王都の拘束施設へ移送されることになり、父の回復を待って後日裁判が行われることとなったがエリザベートの手引きによって逃げられてしまっていた。
そのことが明らかになった日、エリザベートは父に頬を叩かれ理由を問い詰められていたが何も言わなかった。
エリザベートはジルを知っているようだった。だから平民なのに助けようとしたのだろうか。エリザベートは事件のあと、さらに物静かになり、たびたび上の空になっては何かを考えるように窓の外を眺めていた。
結果的に、姉の努力は無駄だった。
ジルは事件から二か月ほど経ったあと侯爵領内で捕らえられ、改めて裁判にかけられることとなったたのだ。最終的にジルをはじめ一家三人が連座して罪に問われ王都まで連行された。
供述によると、どうやらジルはエリザベートに手助けしてもらい逃亡したあと、フランドール侯爵領内の家へ一度戻り、家族に別れを告げ逃亡しようとしたらしい。家族に迷惑をかけないためだったそうだが、妻のマーサと息子のベリルは父親を強く引き留め、近くの森に匿っていた。
重刑としてジルは片手を切り落とされることになり、妻のマーサと息子のベリルは父親のジルを匿った罪で別々の場所で労役という判決がくだり一家離散となった。当然、養鶏所は完全に廃業し、雇われていた数名の従業員も職を失った。
「ベリル……ごめんなさい、ごめんなさい…」
父に連れられて赴いた法廷で判決を聞き、ヒストリアの隣では何故かエリザベートが泣き崩れていた。
可哀想なのは被害者の父であるにも関わらず、野蛮な男の息子に対し謝罪の言葉を繰り返す姿に不快なものを感じ、ヒストリアは姉を冷めた目で見つめた。
「わざわざ王都までやってきて、無様な平民なものだ……よく見ておくがいい、あれが家畜だ」
判決に満足した様子の父は、引き裂かれる家族の姿をに目を細め呟くと口角を持ち上げる。
「……私はここが好きだ。侯爵領は貴重な収入源だが、如何せん学のない野蛮な連中が多くてかなわない……王都こそ我々に相応しい。まさかこの地に来てまで下民の顔を見ることになるとは思わなかったが、きっともう同じことはないだろう」
きっとフランドール侯爵領でこの事件は大きく取り扱われるのだろう。歯向かえばどうなるか、一種の見せしめのような判決だった。しかしこれぐらいしなければ学のない平民には理解できないとヒストリアは納得した。
父は領内の畜産業を軽視している傾向があるようで、貿易が盛んでガラス細工などの芸術品が有名な都心部には予算を渋らないが、他の事業に対しての捻出は財布の紐が固い。さらに母の死後から税率を上げ続けていることを家令のリュートスが苦言している姿を何度か見たことがあった。
貿易拠点の一部の人間が富み中心地から離れるほど荒れてきていると進言するリュートスの言葉を、父がどこまで取り合っていたかは分からないが、フランドール侯爵領は貿易が盛んで東の国境近くの防衛地点を中心とした広大な地は環境が良く潤っていると教師が教えてくれたのをヒストリアは信じることにした。
実際のところ領地の実態がどういうものか分からないが、今回の養鶏所の件も言いがかりだと思いたい。なにせ平民が野蛮であることだけは事実なのだから。この目ではっきりと捉えたので間違いない。野蛮な平民がいくら不満を訴えようが自分たちには関係ない。
「お父様は本当に平民がお嫌いなのですね。私も嫌いです」父の思想に賛同するように言う。
すると父はヒストリアを一瞥したあと亡き啜るエリザベートを傍目に苦々しく告げた。
「あいつらは何をするか分かったものじゃない。私の母は身分に分け隔てのない人だったが、かつて施しを与えた平民に辱められ精神がおかしくなった後に自害した。子供ながらに憐れに思ったものだ……平民は家畜でしかない。お前もよく覚えておくように。大切な宝に傷がついては溜まったもんじゃない……」
その言葉にヒストリアははっとした。平民嫌いの父は傷ついているのだ。家族に酷い仕打ちをされ傷つき、悲しんでいる父の言葉は平民が野蛮であることの裏付けになった。
初めて祖母について語られ、打ち明けられた父の過去にヒストリアの胸はきゅっと締め付けられ、隣で項垂れる姉を見遣る。エリザベートに父の言葉が届いていたか分からなかったが、ヒストリアはジルを逃した愚行を恥じて欲しいと心の底から願った。
包帯を巻いた痛々しい姿にヒストリアは心を痛め、父の寝室を訪ねては花を飾り見舞うとヒストリアを片腕で抱きしめてくれる。
「お父様……まだ傷は痛みますか?」
「心配をかけてすまないね、ヒストリア。お前はなんて良い子なんだ……それに比べて、あれは……」
父を襲ったジルはすぐに王都の拘束施設へ移送されることになり、父の回復を待って後日裁判が行われることとなったがエリザベートの手引きによって逃げられてしまっていた。
そのことが明らかになった日、エリザベートは父に頬を叩かれ理由を問い詰められていたが何も言わなかった。
エリザベートはジルを知っているようだった。だから平民なのに助けようとしたのだろうか。エリザベートは事件のあと、さらに物静かになり、たびたび上の空になっては何かを考えるように窓の外を眺めていた。
結果的に、姉の努力は無駄だった。
ジルは事件から二か月ほど経ったあと侯爵領内で捕らえられ、改めて裁判にかけられることとなったたのだ。最終的にジルをはじめ一家三人が連座して罪に問われ王都まで連行された。
供述によると、どうやらジルはエリザベートに手助けしてもらい逃亡したあと、フランドール侯爵領内の家へ一度戻り、家族に別れを告げ逃亡しようとしたらしい。家族に迷惑をかけないためだったそうだが、妻のマーサと息子のベリルは父親を強く引き留め、近くの森に匿っていた。
重刑としてジルは片手を切り落とされることになり、妻のマーサと息子のベリルは父親のジルを匿った罪で別々の場所で労役という判決がくだり一家離散となった。当然、養鶏所は完全に廃業し、雇われていた数名の従業員も職を失った。
「ベリル……ごめんなさい、ごめんなさい…」
父に連れられて赴いた法廷で判決を聞き、ヒストリアの隣では何故かエリザベートが泣き崩れていた。
可哀想なのは被害者の父であるにも関わらず、野蛮な男の息子に対し謝罪の言葉を繰り返す姿に不快なものを感じ、ヒストリアは姉を冷めた目で見つめた。
「わざわざ王都までやってきて、無様な平民なものだ……よく見ておくがいい、あれが家畜だ」
判決に満足した様子の父は、引き裂かれる家族の姿をに目を細め呟くと口角を持ち上げる。
「……私はここが好きだ。侯爵領は貴重な収入源だが、如何せん学のない野蛮な連中が多くてかなわない……王都こそ我々に相応しい。まさかこの地に来てまで下民の顔を見ることになるとは思わなかったが、きっともう同じことはないだろう」
きっとフランドール侯爵領でこの事件は大きく取り扱われるのだろう。歯向かえばどうなるか、一種の見せしめのような判決だった。しかしこれぐらいしなければ学のない平民には理解できないとヒストリアは納得した。
父は領内の畜産業を軽視している傾向があるようで、貿易が盛んでガラス細工などの芸術品が有名な都心部には予算を渋らないが、他の事業に対しての捻出は財布の紐が固い。さらに母の死後から税率を上げ続けていることを家令のリュートスが苦言している姿を何度か見たことがあった。
貿易拠点の一部の人間が富み中心地から離れるほど荒れてきていると進言するリュートスの言葉を、父がどこまで取り合っていたかは分からないが、フランドール侯爵領は貿易が盛んで東の国境近くの防衛地点を中心とした広大な地は環境が良く潤っていると教師が教えてくれたのをヒストリアは信じることにした。
実際のところ領地の実態がどういうものか分からないが、今回の養鶏所の件も言いがかりだと思いたい。なにせ平民が野蛮であることだけは事実なのだから。この目ではっきりと捉えたので間違いない。野蛮な平民がいくら不満を訴えようが自分たちには関係ない。
「お父様は本当に平民がお嫌いなのですね。私も嫌いです」父の思想に賛同するように言う。
すると父はヒストリアを一瞥したあと亡き啜るエリザベートを傍目に苦々しく告げた。
「あいつらは何をするか分かったものじゃない。私の母は身分に分け隔てのない人だったが、かつて施しを与えた平民に辱められ精神がおかしくなった後に自害した。子供ながらに憐れに思ったものだ……平民は家畜でしかない。お前もよく覚えておくように。大切な宝に傷がついては溜まったもんじゃない……」
その言葉にヒストリアははっとした。平民嫌いの父は傷ついているのだ。家族に酷い仕打ちをされ傷つき、悲しんでいる父の言葉は平民が野蛮であることの裏付けになった。
初めて祖母について語られ、打ち明けられた父の過去にヒストリアの胸はきゅっと締め付けられ、隣で項垂れる姉を見遣る。エリザベートに父の言葉が届いていたか分からなかったが、ヒストリアはジルを逃した愚行を恥じて欲しいと心の底から願った。