冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
邸に帰ってもまだ物陰で泣いていたエリザベートにヒストリアは声をかけた。
領主の屋敷に押しかけ逆上して発砲するような人間を助けようなどと理解し難かったが、一応は血を分けた姉だ。父がヒストリアにも愛を与えるようになってから今まで、嫉妬なのかヒストリアの親切を退け、そのくせ家の中でヒストリアの使用人への態度などを窘めるなど小言が多く折り合いが悪かったエリザベートにもう一度歩み寄ろうと思ったのだ。
「ねぇ……お姉さまはあの家族を知っていたのよね。裁判所で名前を呼んでた」
エリザベートは静かにハンカチで涙を拭きヒストリアを振り返る。いつ見てもさらりと真っ直ぐに落ちる細い銀髪がはらりと揺れた。
「領地に戻っていた時に出会ったわ。エール地方は別邸があるでしょう。ベリルは外出注意に怪我をした私を介抱してくれたの……それから、マーサやジルとも親しくなって、領地に戻ったときは時々会ってていたのよ……いい人たちだった。最近は王都から出ることもなくて会えなかったけど、覚えていたわ……」
エリザベートがポツポツと続ける。滅多と帰らない領地だったが、ヒストリアの王太子妃教育が本格化するまでは観光を目的に別邸に赴くこともあった。
その時なのだろうか、ヒストリアの知らないところでエリザベートはいつの間にか平民と交流していたらしい。
「まぁ……そんな……」
エリザベートが危害を加えられなかったことに安堵する一方で、無防備な姉の行動に眉根を寄せた。
「危険だわ!平民と関わるなんて、もう二度と止めてちょうだい。お父様が嫌がるわ」
姉を心配して云うと何故かエリザベートは絶句した。しかし、ややあって重々しく口を開く。
「……ヒストリア。平民が危険なんて、そんなの偏見よ……」
エリザベートは切れ長の瞳をキツくし声を潜めた。敵意のような鋭さを感じヒストリアは動揺して声を張り上げる。
「だって平民は家畜でしょう?私達のような貴族とは違うもの。お父様を傷つけるような男も、その家族も、きっと乱暴よ!」
「乱暴じゃないわ。それにベリルは優しくて物知りで、将来は書記官になりたいって努力家だった……」
「間違いよ。油断したら何をされるか分かったもんじゃないわ……」
「ヒストリア!!」
ついにエリザベートが声に荒げ反射的にびくりと肩を揺らす。
「わ、私が間違ってるの……?」
せっかく心配してあげたのに。内心ではそう思ったが、その言葉は口にはできなかった。
「大きな声を出してごめんなさいね……」
怯えた顔を見てエリザベートはすぐに優しい声音で謝ったあとなにかを呟いた。
「……もうこの家には期待しないわ」
「お姉様……?」
何を言ったのかよく聞き取れなかったため疑問を向けたが、エリザベートは品の良い笑みを浮かべるとヒストリアを抱きしめた。
「ごめんなさい。もう彼らに会うことはないから……安心してちょうだい。お父様のことも傷つけないわ」
久しぶりにエリザベートの腕の中に抱き掬われ懐かしい温かさに安堵し頷く。どうやら姉はわかってくれたらしい。
あの時はそう信じていた。二人の関係もきっとこれから良くなっていくのだと期待さえしたものだ。
しかし思えばあの出来事からエリザベートは何かにつけてヒストリアを悪者に仕立てるようになった気がする。
手持ち無沙汰に聖書を何度もパラパラと捲りながら体勢を変えてベッドに突っ伏したまま、ヒストリアは長い溜め息を零した。
領主の屋敷に押しかけ逆上して発砲するような人間を助けようなどと理解し難かったが、一応は血を分けた姉だ。父がヒストリアにも愛を与えるようになってから今まで、嫉妬なのかヒストリアの親切を退け、そのくせ家の中でヒストリアの使用人への態度などを窘めるなど小言が多く折り合いが悪かったエリザベートにもう一度歩み寄ろうと思ったのだ。
「ねぇ……お姉さまはあの家族を知っていたのよね。裁判所で名前を呼んでた」
エリザベートは静かにハンカチで涙を拭きヒストリアを振り返る。いつ見てもさらりと真っ直ぐに落ちる細い銀髪がはらりと揺れた。
「領地に戻っていた時に出会ったわ。エール地方は別邸があるでしょう。ベリルは外出注意に怪我をした私を介抱してくれたの……それから、マーサやジルとも親しくなって、領地に戻ったときは時々会ってていたのよ……いい人たちだった。最近は王都から出ることもなくて会えなかったけど、覚えていたわ……」
エリザベートがポツポツと続ける。滅多と帰らない領地だったが、ヒストリアの王太子妃教育が本格化するまでは観光を目的に別邸に赴くこともあった。
その時なのだろうか、ヒストリアの知らないところでエリザベートはいつの間にか平民と交流していたらしい。
「まぁ……そんな……」
エリザベートが危害を加えられなかったことに安堵する一方で、無防備な姉の行動に眉根を寄せた。
「危険だわ!平民と関わるなんて、もう二度と止めてちょうだい。お父様が嫌がるわ」
姉を心配して云うと何故かエリザベートは絶句した。しかし、ややあって重々しく口を開く。
「……ヒストリア。平民が危険なんて、そんなの偏見よ……」
エリザベートは切れ長の瞳をキツくし声を潜めた。敵意のような鋭さを感じヒストリアは動揺して声を張り上げる。
「だって平民は家畜でしょう?私達のような貴族とは違うもの。お父様を傷つけるような男も、その家族も、きっと乱暴よ!」
「乱暴じゃないわ。それにベリルは優しくて物知りで、将来は書記官になりたいって努力家だった……」
「間違いよ。油断したら何をされるか分かったもんじゃないわ……」
「ヒストリア!!」
ついにエリザベートが声に荒げ反射的にびくりと肩を揺らす。
「わ、私が間違ってるの……?」
せっかく心配してあげたのに。内心ではそう思ったが、その言葉は口にはできなかった。
「大きな声を出してごめんなさいね……」
怯えた顔を見てエリザベートはすぐに優しい声音で謝ったあとなにかを呟いた。
「……もうこの家には期待しないわ」
「お姉様……?」
何を言ったのかよく聞き取れなかったため疑問を向けたが、エリザベートは品の良い笑みを浮かべるとヒストリアを抱きしめた。
「ごめんなさい。もう彼らに会うことはないから……安心してちょうだい。お父様のことも傷つけないわ」
久しぶりにエリザベートの腕の中に抱き掬われ懐かしい温かさに安堵し頷く。どうやら姉はわかってくれたらしい。
あの時はそう信じていた。二人の関係もきっとこれから良くなっていくのだと期待さえしたものだ。
しかし思えばあの出来事からエリザベートは何かにつけてヒストリアを悪者に仕立てるようになった気がする。
手持ち無沙汰に聖書を何度もパラパラと捲りながら体勢を変えてベッドに突っ伏したまま、ヒストリアは長い溜め息を零した。