冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
――――役割り与えられたいと考えたその日、ヒストリアに降ってきたのは肩透かしとなる台詞だった。

ヒストリアのやる気を感じ取られたのかルーメンに屋内へ入るよう促され、無駄のない美しい所作で食卓用の椅子を引かれ着座を勧められた。

そこまでは良かったのだが、大木の移動の掛け声やベリルが指示を出す活気のある音を拾いながら神妙な面持ちで言われた言葉が問題だったのだ。

「まずは読書だ。本を読んでくれ」

「……え、なんて?」

ヒストリアは思わず訊き返した。
もっと聖女の力を必要とされるのかと期待していたのだ。

与えられた役割は読書。遠回り過ぎるように思えた。

せっかく助手としてのやる気が沸きはじめたタイミングで読書を勧められるとは誰が想像しただろうか。
そんな感情から出た短い言葉をルーメンが見逃すはずがなく、滲む不満を窘めるかのごとく言う。

「聖女と瘴気について理解を深めてもらう。ベリルと工期を算出したが、研究所となる家が立つまで最短で二週間だ。人手を増やして料金を上乗せしたぶん早いだろうが、あくまで二週間は理想だ。実際は天候にかなり左右されるから三週間とみてもいいだろう。君の勉強には都合がいいと思わないか?」

時間があるから知識をつけろという言い分は理にかなっているが、やはりまだ不満は残る。

自分で出来ることが増えてきたヒストリアには妙に物足りなかったのだ。

「……それだけ?」

「食事は俺が作るが、それ以外の自分の身の回りのことをして勉強をするんだ。十分忙しいだろう」

「じゃあ、あなたは?」

「俺は当然、建築作業に参加する。君はさっき”それだけ?”と聞いたが、どのぐらいの冊数を想像した?」

「……えぇと。ニ、三冊ってところかしら……」

そこまで言ったところで、ルーメンから息を吐き出すかのような薄い笑みが漏れた。

「俺が君に読ませたい本はそんな数冊どころじゃない」

ローブに手を入れ何か取り出す。
魔法で圧縮していた本だろうかと考えながら眺めていれば、小銭を積み上げたかのように置いたものにルーメンが囁き、途端にテーブルを埋めるかの如く本の山が出来上がった。

「どうだ。これでも物足りないか?」

魔法で圧縮されていた本の量は確かにヒストリアの想像をはるかに超えていた。

「一言一句記憶するつもりで読むんだ。聖書から始めるといい」

そう言い残しルーメンは作業に戻っていく。

一人きりになり溜息を零した。
あんなにやる気が出ていたが、少し億劫な気持ちにもなったのだ。

だが去り際にルーメンは先人の知恵とも捉えられる助言も残していたことを思い出す。

「慣れだ。繰り返すと文字を追うことに慣れてくる。そして一度読むより二度、三度と繰り返していくと人の記憶に残りやすい。じっくり一度読むより複数回さらっと読む方がいい。出来るなら声に出すことも勧めておく」

ヒストリアはこれまでさぼり癖がついていたため、勉強となると、王宮に上がるようになってからはまともに本を読んだことがない。

覚えている内容は口うるさく履修確認をされた箇所が殆どで、今となっては正確に覚えているという自信すらなかった。

という程に本に対する苦手意識、というよりも勉強そのものに身構えるものがあったが、しかし今はやるしかない。

なにせルーメンの言葉に感化されてやる気がでたのだから。
自ら申し出た手前、今さらできないなど弱音を吐けば助手という立場も失いかねないのだ。

ひとまずやってみようと一冊を手に取る。

聖書は分厚いが、これならルーメンから得た話と照らし合わせながら興味を持って読むことができそうだった。

もしかするとヒストリアが読み飛ばしていただけで魔法使いのことも載っているかもしれない。
見慣れた装丁をなぞり、羊皮紙をめくった。

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