冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
――ガタ、と唐突に何かがぶつかる音がした。
それが扉の方だと気付いたヒストリアは作業の手を止め音のした方へと顔を向ける。村まで薬を納品しに出かけたルーメンを想像したが、それにしては違和感のある音だった。
耳をそばだてていると、もう一度何かが扉にぶつかる音が続く。
人、というより動物だろうか。なんとなく近づくべきでないと胸騒ぎがするが、とても見ずにはいられない。好奇心とはそういうものだ。何が起きるか想像するより先に足が扉へと進む。
そっと耳を当てると「ギ、ギ、……」と木目を爪で研ぐような振動があった。
やはり動物だと確信したヒストリアは、少しだけ扉を開き隙間を作る。
それだけでは何が音を立てていたかは分からない。飛び込んでくる気配もないため、もう少しだけ開き顔を覗かせると、灰色の小さな塊がそこにあった。
「……猫?」
僅かに震えている姿に、ヒストリアは眉を顰めると静かに扉を閉めてから考えた。
雨が連れてきたのは小汚い子猫だった。
そして再び扉を開き様子を暫く窺ったあと、動く様子のない子猫を両手で掬い上げ、室内へ連れていった。今では一人で湯を沸かすこともできるようになり、手際よく桶に湯を張る。身体を拭うのに最適な温度で子猫の身体を洗っていけば桶の中の色が変わった。
雨と泥に濡れ見るに堪えなかった姿は変わり、シルバーグレーの短い毛並みが現れる。
「汚いわね」
猫と対比する湯の色を見て呟く。
土の付いた野菜を洗うことに慣れても、動物にはまだ抵抗がある。
生きていると分かる鼓動は指で感じるが、ぐったりとしたままで眼を開ける気配はない。
身体を拭いてやったあとヒストリアは瓶の中から白い塊を取り出しミルクを用意し、スプーンでそれをすくって子猫の口許に当ててみる。一度目は反応がなかったが、暫く待って再び試してみると鼻がひくつき桃色の舌が伸びてきて飲みこんだ。相変わらず瞼は閉じたままだ。
「寝たまま飲むつもり?ちゃんと起きて」
抱き直して呼びかければ子猫は大きな青い目をヒストリアに向けた。
同じ色だった。澄んだ浅瀬の澄んだ色でなく、海の底のような深い青。
僅かに覚えた親近感を拭うように無心でミルクを与えてから、ヒストリアは部屋を移動すると暖炉の近くの長椅子で膝に乗せルーメンの帰りを待つことにした。
空腹が満たされたのであろう子猫はヒストリアに頬を摺り寄せてくる。
「現金ね……まぁ、私も同じようなものだけど」
ぴょん、とヒストリアの膝を蹴って胸元を駆け上がった。肩にしがみつくよう登り上げた子猫は耳元を擽るように鼻をつけてくる。その仕草をやんわり手で窘め引きはがし膝へと戻した。
「私、動物は好きじゃないのよ。ドレスに毛がつくし、それにあんた達も私が嫌いでしょう?」
言えば子猫はじっと青い目でヒストリアを見据えあと瞬したかと思えば腹を出すように転がった。
不思議なものだ。そう思うと苦笑いが零れた。
それが扉の方だと気付いたヒストリアは作業の手を止め音のした方へと顔を向ける。村まで薬を納品しに出かけたルーメンを想像したが、それにしては違和感のある音だった。
耳をそばだてていると、もう一度何かが扉にぶつかる音が続く。
人、というより動物だろうか。なんとなく近づくべきでないと胸騒ぎがするが、とても見ずにはいられない。好奇心とはそういうものだ。何が起きるか想像するより先に足が扉へと進む。
そっと耳を当てると「ギ、ギ、……」と木目を爪で研ぐような振動があった。
やはり動物だと確信したヒストリアは、少しだけ扉を開き隙間を作る。
それだけでは何が音を立てていたかは分からない。飛び込んでくる気配もないため、もう少しだけ開き顔を覗かせると、灰色の小さな塊がそこにあった。
「……猫?」
僅かに震えている姿に、ヒストリアは眉を顰めると静かに扉を閉めてから考えた。
雨が連れてきたのは小汚い子猫だった。
そして再び扉を開き様子を暫く窺ったあと、動く様子のない子猫を両手で掬い上げ、室内へ連れていった。今では一人で湯を沸かすこともできるようになり、手際よく桶に湯を張る。身体を拭うのに最適な温度で子猫の身体を洗っていけば桶の中の色が変わった。
雨と泥に濡れ見るに堪えなかった姿は変わり、シルバーグレーの短い毛並みが現れる。
「汚いわね」
猫と対比する湯の色を見て呟く。
土の付いた野菜を洗うことに慣れても、動物にはまだ抵抗がある。
生きていると分かる鼓動は指で感じるが、ぐったりとしたままで眼を開ける気配はない。
身体を拭いてやったあとヒストリアは瓶の中から白い塊を取り出しミルクを用意し、スプーンでそれをすくって子猫の口許に当ててみる。一度目は反応がなかったが、暫く待って再び試してみると鼻がひくつき桃色の舌が伸びてきて飲みこんだ。相変わらず瞼は閉じたままだ。
「寝たまま飲むつもり?ちゃんと起きて」
抱き直して呼びかければ子猫は大きな青い目をヒストリアに向けた。
同じ色だった。澄んだ浅瀬の澄んだ色でなく、海の底のような深い青。
僅かに覚えた親近感を拭うように無心でミルクを与えてから、ヒストリアは部屋を移動すると暖炉の近くの長椅子で膝に乗せルーメンの帰りを待つことにした。
空腹が満たされたのであろう子猫はヒストリアに頬を摺り寄せてくる。
「現金ね……まぁ、私も同じようなものだけど」
ぴょん、とヒストリアの膝を蹴って胸元を駆け上がった。肩にしがみつくよう登り上げた子猫は耳元を擽るように鼻をつけてくる。その仕草をやんわり手で窘め引きはがし膝へと戻した。
「私、動物は好きじゃないのよ。ドレスに毛がつくし、それにあんた達も私が嫌いでしょう?」
言えば子猫はじっと青い目でヒストリアを見据えあと瞬したかと思えば腹を出すように転がった。
不思議なものだ。そう思うと苦笑いが零れた。