冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
そんなことがあってから動物が苦手に思うようになったのだが、しかし今、膝に転がる子猫はヒストリアの手を小さな舌で舐めている。
「仕方ないわね……生きたくて媚びてるのかしら」
何か理由をつけなければむず痒い気持ちにさせられる動きだった。
暫くするとルーメンは戻ってきた。
「それは?」
濡れたローブを暖炉の傍の吊り具に掛けながらルーメンは言った。
長椅子に腰をかけるヒストリアの膝に居る小さな来客は身体を縮こませたまま固まっている。
視線は真っすぐルーメンの挙動へと注がれており、子猫が自分に無害な相手かどうか観察しているのだと分かる。
「拾ったの。玄関に倒れていたわ」
「飼うつもりか?」
「違うわよ。弱ってたからミルクをあげただけ。玄関に死体があったら嫌でしょ……ねぇ、村で猫を飼いたいって人を探してちょうだい」
「……探してもいいが、君が世話してやったらどうだ?動物が好きそうだし」
ルーメンに言われ、微妙に胸がざわつくのをヒストリアは感じた。
「まさか。嫌いよ、懐かないし」
「懐いてるじゃないか。それに気付いてないようだが、森に行くと君は鹿や鳥をよく眺めている」
見られていたのかと思うと妙に気まずくルーメンから顔を背ける。
指摘は間違っていない。本当は好きだ。動物がヒストリアを嫌うから嫌いだと思うようになっていただけなのだ。
この猫も今はミルクを与えてくれたヒストリアに擦り寄ってきているが、きっと他に保護してくれる者が現れれば次の日には忘れているかもしれない。だからルーメンに頼んでいるのだ。
「君は香水とか、そういったものを身につけるタイプだろう」
徐にルーメンに言われ何のことかと首を傾げた。
「動物は嗅覚が鋭い。もし過去に懐かないといったことがあったのなら、匂いが原因の可能性もある。たとえば柑橘系や香辛料の香は忌諱される」
言われてヒストリアは大きく瞬きをした。
香水ならばその当時いつも身につけていた。王子と正式に婚約を結んでおり、他の令嬢達に見くびられないよう、身に着けるドレスやアクセサリーを始め化粧なども常に最先端のものを施し、そして香水は当たり前のように振りかけていたのだ。
改めて考えると七歳のヒストリアに香水は必要なものではなかったのだが、デビュタント前の令嬢達を集めたお茶会ではいつも三大公爵家のソフィーナ公爵令嬢が最先端の流行を見せつけてくるため、背伸びをしていたのだ。
もしも本当に香水が原因だったというのなら、動物から嫌われていたのは自分のせいだ。
「……この猫。気紛れで出て行くかもしれないし、それまで世話するわ」
膝の上の子猫を撫でつけながら見つめ、ヒストリアが言う。
「分かった。放っておけないからな」ルーメンは小さく頷き言った。
それはヒストリアが胸中に抱いていた想いを代弁するかのような言葉だった。
「仕方ないわね……生きたくて媚びてるのかしら」
何か理由をつけなければむず痒い気持ちにさせられる動きだった。
暫くするとルーメンは戻ってきた。
「それは?」
濡れたローブを暖炉の傍の吊り具に掛けながらルーメンは言った。
長椅子に腰をかけるヒストリアの膝に居る小さな来客は身体を縮こませたまま固まっている。
視線は真っすぐルーメンの挙動へと注がれており、子猫が自分に無害な相手かどうか観察しているのだと分かる。
「拾ったの。玄関に倒れていたわ」
「飼うつもりか?」
「違うわよ。弱ってたからミルクをあげただけ。玄関に死体があったら嫌でしょ……ねぇ、村で猫を飼いたいって人を探してちょうだい」
「……探してもいいが、君が世話してやったらどうだ?動物が好きそうだし」
ルーメンに言われ、微妙に胸がざわつくのをヒストリアは感じた。
「まさか。嫌いよ、懐かないし」
「懐いてるじゃないか。それに気付いてないようだが、森に行くと君は鹿や鳥をよく眺めている」
見られていたのかと思うと妙に気まずくルーメンから顔を背ける。
指摘は間違っていない。本当は好きだ。動物がヒストリアを嫌うから嫌いだと思うようになっていただけなのだ。
この猫も今はミルクを与えてくれたヒストリアに擦り寄ってきているが、きっと他に保護してくれる者が現れれば次の日には忘れているかもしれない。だからルーメンに頼んでいるのだ。
「君は香水とか、そういったものを身につけるタイプだろう」
徐にルーメンに言われ何のことかと首を傾げた。
「動物は嗅覚が鋭い。もし過去に懐かないといったことがあったのなら、匂いが原因の可能性もある。たとえば柑橘系や香辛料の香は忌諱される」
言われてヒストリアは大きく瞬きをした。
香水ならばその当時いつも身につけていた。王子と正式に婚約を結んでおり、他の令嬢達に見くびられないよう、身に着けるドレスやアクセサリーを始め化粧なども常に最先端のものを施し、そして香水は当たり前のように振りかけていたのだ。
改めて考えると七歳のヒストリアに香水は必要なものではなかったのだが、デビュタント前の令嬢達を集めたお茶会ではいつも三大公爵家のソフィーナ公爵令嬢が最先端の流行を見せつけてくるため、背伸びをしていたのだ。
もしも本当に香水が原因だったというのなら、動物から嫌われていたのは自分のせいだ。
「……この猫。気紛れで出て行くかもしれないし、それまで世話するわ」
膝の上の子猫を撫でつけながら見つめ、ヒストリアが言う。
「分かった。放っておけないからな」ルーメンは小さく頷き言った。
それはヒストリアが胸中に抱いていた想いを代弁するかのような言葉だった。