冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
第七章 選ばれなかった者たちへ

階級社会の歪、日陰のロイド

――もしも選ばれた人間が何をしても良いと言うのなら、僕にだってその権利があるはずだ。


「ヒストリアが死罪にならなかった。話が違うぞ、エリザベート」

ヒストリア断罪後、王宮からフランドール邸に戻るなり、ロイドはエリザベートを私室に呼びつけ小声で迫っていた。

「そういえば、ベルナルド王太子が正式な手続きを踏むべきだとごねていたという話があったわね……折衷案かしら」

思い出したように告げるエリザベートにロイドは眉根を寄せる。

「――ユリアンか?」

情報源と考えられる姿を脳裏に浮かべ、監禁部屋を訪ねるべく踵を返すが背を追うように告げるエリザベートの言葉に歩みを止めた。

「責めないでちょうだい。私が必要ないと言ったのよ。知ったところで手を出せないもの、そうでしょう?」

露骨な嫌悪を表情に出したまま、ロイドはエリザベートを見据え、問う。

「……まさか殿下はヒストリアを好いていたのか?」

ベルナルド王太子殿下との茶会の度に曇った表情で帰ってくるヒストリアに、二人の間に愛などないと確信していたが、無能な婚約者に対し殿下は何らかの感情を抱いていたとでもいうのか。

あり得ない。
ロイドの考察を肯定するようにエリザベートは扇子を口元に当てると静かに笑った。

「彼に恋愛感情なんてないわ。あるのは王族としての責務だけ……真面目なのよ。堅物は国王より厄介ね。激情型の人間は容易に転がってくれるのに、残念だわ」

「は……君はえらく余裕だな」
「焦っても仕方がないでしょう」
「僕が焦っているとでも?雑草を早く処理したいだけだ」

計算に歪が起きているというのに、エリザベートは対応しないどころか流れに身を任せようとしている。
昔からそういう嫌いがある女だったが、今回に関しては鼻につく態度に腹を立てずにはいられなかった。

しかしエリザベートはロイドに燻ぶる怒りを見透かしたうえで、至極冷静に釘を刺すのだ。

「――ロイド。真実を暴かれる人間というのは、総じて陥れた相手に対し積極的に関わっていこうとするものよ」

一体何を言っているのだ。

「多少予定が狂ったところで動じる必要はないの。それとも、あなたはあの子が辺境で生きていけるほど逞しい精神を持っていると感じるのかしら?」

荒い吐息を溢し、ロイドは甘い瞳と称される眼を眇めて鋭く睨みつけたあと、無駄に豪奢な絨毯が張り付けられた床に視線を落とし逡巡する。

それから妥協点を見い出すとエリザベートへ向けて再び視線を戻した。

「相変わらず嫌味な女だな……だが、分かった。勝利には変わりない。ただし見張りはつけておく」

「見張り……」
「なんだ、不満か」

静かに繰り返された言葉にロイドは片眉を上げた。
まるで納得していないとでも言いたげで、しかしエリザベートは静かに首を振って歩みロイドの横を通り過ぎていく。

「いいえ。それより明日は神殿に行くわ。さっそく大聖女代理の打診を受けたの。爵位継承の相談も滞りなく進めるつもりよ」
その言葉にロイドの胸中はいくらか穏やかになった。

ヒストリアの扱いを決めた王家と神殿は行動が早い。
他の貴族らに噂が回る前にエリザベートへ話を通していたようだ。

今後はエリザベートが大聖女代理の地位を賜り、フランドール家から籍を抜く意思を表明すれば良い。

根回しはしてある。
加えて念のため父に無理矢理捺印させた同意書と、ロイドのこれまでの領地経営の実績、それらを以てすれば継承を管理する貴族院で速やかに通るはずだ。
< 85 / 131 >

この作品をシェア

pagetop