冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
――爽快な気分だった。
二人で息を切らしながら離れの小屋の前に辿り着き、ベリルは金の卵を見せてやると言った。

ここは養鶏場の中でも特別な場所だ。

「金の卵?」
「おう。ここにあるのは全部、選別した鶏が産んだ卵だ!」

一見すればなんてことのないただの小屋。だが至る所に仕切りや名札がある。
それをエリザベートはまじまじと見つめた。

「綺麗に管理されてるのね……」

「親の掛け合わせが違うんだよ。こっちはよく卵を産むやつ、そっちは身体がデカいやつ、んであれは飼料をよく食うメスから産まれたやつ。一羽の雄が選別した雄と交配するだろ、んで次に違う雄と選別した雌を交配させるってのを繰り返して……とにかく、分けてんだよ」

「実験しているのね」

エリザベートはすぐにこの小屋の用途に気づいたようでベリルは得意げに笑った。

「手間暇かかってるぜ。鶏のブランド化?ってのをしたいって親父が言い出してよ。用途に分けた鶏を作ったら絶対高く売れるんじゃねーかって」

「それで金の卵なの?」
「可能性が詰まってるからな。こいつがどんな風に育つか楽しみなんだよな」

ぐるりと視線を周囲に流して言うと、エリザベートが卵を眺めながらゆったりと小屋の中を歩き「すごい……」と呟いた。

そして低い仕切りの前で止まる。
さらに奥から鶏の鳴き声が聞こえるのに気付いたようで、ベリルを振り返った。

「成功するといいわね。ねぇ、あっちの部屋は?」

ベリルはエリザベートが興味を向けた部屋に案内した。
同じ大きさで仕切られている飼育室が何組みかあり、そこには違う数の鶏が放たれている。

「こいつらは同じ親で同じ飼料を使ってる。でもストレスのかかり方が違うんだよ」
「それで部屋の中の鶏の数が違っていたのね」

エリザベート納得した様子で頷いていた。

「……ストレスがない方が美味しいとは聞くけれど、それだけを調べてるわけじゃなさそうね」
「さすがだな。これは境界線を探してんだよ」

「でもそれって鶏によって違うものじゃないのかしら?」

観察をするエリザベートの横顔には関心の篭った熱が見え、その考察にベリルは思わず口角を持ち上げた。

「と思うだろう?けどよ、親父の知り合いのそのまた知り合いの学者が統計を取り続ければ個性の違いがあってもだいたいの境界線が分かるって言ってんだよ」

「面白い話ね。けれどいつまで記録を続けるつもり?」
「さぁな。親父の気が済むまでじゃねーか。母さんものんびりしてっから止めねぇだろうしよ」

「それだとジルなら引退するまでやりそうね。次の年もぜひ見せてちょうだい」
「あぁ。毎年教えてやるよ」

小さな約束をして頷き、その時はエリザベートも楽しそうにしていた。
しかし何故かその瞳からは光が消えてゆく。

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