冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
――ラキュウス辺境伯に一刻も早く事態を伝えるために、ヒストリアは鞍の上で馬に揺られていた。

慣れない振動と高い視界は恐ろしく感じたが、これが最速で身軽な移動手段と言われれば従うしかない。ルーメンと一緒に行くと言ったのは自分なのだ。
乗馬は初めてで当然ひとりで手綱が握れるわけもなくルーメンと同乗している。
ヒストリアは馬が駆ける勢いに軸がぶれそうになったが、その身体をルーメンはしっかりと支えてくれていた。

ユリアンはといえば鳥に姿を変え、追随するように飛行している。
始めこそドラゴンに姿を変え二人を運ぶと主張していたが、それは目立つから今は馬の方がいいと希望するルーメンに従った結果の姿だった。

「ベリルとは話せたのか?」ルーメンが訊く。
「えぇ。姉のことを聞いたの。ベリルは昔、姉と交流があったから……」

どこまで説明すべきか悩みながら、それだけ言うとルーメンは「そうか」とだけ返し深く問うことはなかった。
その様子を背中で感じながらヒストリアはルーメンの反応に恐怖を感じているのだと自覚した。
既に醜態は晒してきたが、敬愛以上のものを感じ始めた今は以前とは違う。

こんなにも緊張するなんて。

軽蔑されるかもしれないという恐怖に顔を強張らせながら、しかし知っていて欲しいとも思う。
迷いの色を浮かべながらヒストリアは考えた。

伝えるなら今が一番なのかもしれない。
密着しルーメンは背後にいる。今なら正面から顔を直接見なくて済む。
だから言えることもある。

「私、ベリルのことで姉を傷つけることを言ったわ。父の真似して、平民は家畜だって……関わるべきじゃないって。平民はみんな野蛮だと信じてたから。過剰な制裁を加えようとする父を正義だと思ってた……きっと落胆されたと思う」

通りすぎてゆく木々を視界も端に捉えながらヒストリアはとりとめなく告白した。

姉がベリルの家族と交流があったこと。
ベリルの父が起こした事件。
そもそもの原因は父にあったこと。
罪に対して重すぎる罰を父が求刑したこと。
それに賛同し姉のためを思いヒストリアが発した言葉。

時折激しい揺れに落ちそうになる身体をルーメンが腕を回して抱き寄せる。

「……君はもう平民を家畜だと思ってないだろう」

「えぇ……彼らは貴族の所有物でないし、平民だから野蛮だなんて決めつけられない。……階級や呼び方なんて、国が上手く回っていくための記号なのよね」
「そうだな」

「でも。だからって冤罪まででっちあげられる謂れはないとも思ってる。姉を理解したい気持ちと憎しみが両方あるの」

ヒストリアは少しずつ形を成していく姉の姿にこれまでの自分の態度を反省する一方で、極論に至った姉の行動をまだ完全には理解できないでいた。

「当然だ。人間らしいじゃないか」

ルーメンはヒストリアを否定することなく手綱を握り前を見据えたまま静かに言った。

「でもこんな私って聖女らしくはないわよね……」

ここはしおらしく自分も悪かったと許すところだろう。そういう人間の方はきっと懐が広いと評価される。
しかし同居する感情の一つを完全に消すことが出来ない。恥いるように告白したのはルーメンに答えを求めていたからだろう。

「前も言ったはずだ。自分の価値は自分で決めろと。聖女らしさも同じだ。生きていれば感情は複雑になる。感情を無理矢理削る必要はない……君の中で生まれた感情を共存させた上で、どうありたいか考えればいい」

「私がどうありたいか……」

確かにルーメンは以前も同じような事を言っていた。
聖女に献身を求めることを嫌い、祈りは自分のためにするものだと。
どうありたいか考えればいいという言葉に、ヒストリアは押し黙ると風を切りながら考えた。

ーー憎しみは削るのでなく、御することが必要なのだろうか。

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