冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
実に一日をかけ移動し、ヒストリアはラキュウス辺境伯の元へと辿り着いた。
ラキュウス辺境伯がディート地区に近い街に拠点を構えていたおかげで早々に謁見することが出来たのだ。

辺境伯らしい最低限の調度品が飾られているだけの実務的な屋敷は、華美を好む父の趣味に塗り替えられていたタウンハウスよりも質素で冷たい雰囲気を感じさせる。

襲撃があったことを報告し、それがロイドの手のものであること、ユリアンの証言によりヒストリアの罪が冤罪であったことを報告すると、その冷徹な表情は微かに揺らいでいた。

そして何よりもラキュウス辺境伯を驚かせたのは国王が既に暗殺されているという事実だった。

「まさか国王が死んでいるだと!?……では今あの椅子に座っているのは誰だというのだ。王宮内で異変は起きていないはずだ」

「分かりません。……影武者、あるいはユリアンと同類の力を持つ魔法使いの介入などが考えられるでしょう」

ルーメンが仮説を立てるとラキュウス辺境伯は窓辺を見やり暗闇を見つめていたが、その姿は心を彼方に向けているようにも見えた。

「この国はロイド・フランドールによって密かに乗っ取られようとしているのだな……」

放心とまではいかないが、棘を抜かれたような声音でラキュウス辺境伯は呟いた。
思いつめ、一度は王位簒奪すら考えていたラキュウス辺境伯にとって、あまりにもあっけなく私的な理由で国王が殺されたことは動揺するに十分だったはずだ。

「ラキュウス辺境伯。早急に国王の正体を暴かなければなりません」
「あぁ、そうだな……」

辺境伯は息を吐き、傍に控える騎士を見遣ったあと頷いた。

「国務は通常通り執り行われているようだが、問題のシェリル王女とロイドの婚約については式の日取りが決まってしまった」

「それはいつですか……?」

ヒストリが恐る恐る問うと、ラキュウス辺境伯は固い声で告げた。

「明後日だ」
「そんなに早く……?」

あり得ない話ではない。
急ぎの理由がある場合は婚約間もなく正式に婚姻するものだ。

だが王族となれば貴族以上に政治の調整に慎重になるもの。
本来ならばシェリル王女は外交目的に他国からの婚姻の打診があるはずで、恋愛を理由にロイドとの婚姻を急いで進めるためには国王以外にも強い後ろ盾が必要になる。

「私が貴族院を通して正式に抗議したことが、返って逆撫でしたのかもしれんな」

いくら貴族から遠巻きにされているラキュウス辺境伯とて、王弟という立場は揺るぎなく発言権が強い。

ラキュウス辺境伯を盾に、シェリル王女とロイドの婚姻に難癖をつけたい重鎮らとの思惑が一致し、正式にロイドとの婚姻に対する抗議の文面を送り付けたらしいが、ヒストリア達に対しラキュウス辺境伯は重々しく告げた。

「結局、抗議は退けられた。最終的な決め手となったのは神殿までもが国王を支持したことにある」

その発言に皆が押し黙る。

「ロイドこそ神殿と繋がりなんてなかったはずです……しかも姉は神殿の騎士まで動かしてユリアンの逃亡を助けたというのに、切り捨てられたっていうの……?」

ヒストリアは混乱していた。
エリザベートはロイドを見限り、神殿に協力を仰いで暴走を止めようとした。
神殿は姉の、いや、国の味方ではないのか。

その疑問の答えを提示するかの如くルーメンは暫く考えたあと静かに言った。

「接点のなかったところが何らかの思惑の一致で繋がったか……。もしロイドが聖者であると証明されたなら、神殿はそちらを選んだのかもしれないな」

魔法使いを洗脳する力を持つ聖者。
その驚異的な力で忌諱されていた魔法使いを自在に操る力は、大聖女よりも有益ともいえるのかもしれない。

それを理解した瞬間、ヒストリアは胸の内を濁らせた。

「そんな……だったら姉はどうなるの……」
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