ゴシップ記者令嬢なので婚約破棄の真実を暴いたら侯爵令息さまに付きまとわれています。邪魔です。
「あと『キャサリンさまに呼び出されたわ、どうしよう』とか告げておいて、小間使いは置いていかれたパターンもありそうです」
「僕の言ったことを無視しないでほしいんだが。クララが独りで出かけた説はうなずける」

 それでもルーシーはアーサーの方を見なかった。「ストーカー」だの「えぐい」だの言う男など放っておけばいい。

「二番目の噴水の件は、ちょっと調べないとわかりませんね。生徒に目撃者がいないか……あるいは学園の庭園管理課にでも、噴水が荒らされた痕跡がなかったか訊いてみましょう」
「そうだな。あとクララのハンカチはどうする?」

 答えなければならない質問をブチ込んで、アーサーはじっとルーシーを見つめる。ビジュの良さに軽く圧倒されながらルーシーはつとめて冷静に応じた。

「それはどうしようもありません。クララさんの部屋と荷物を探してブツが出てくれば反証になりますが、捜査権がないです」
「他の部分でくつがえしていくしかない、と」
「逆に、他がくつがえればハンカチなんてどうでもいいです。ハンカチをキャサリンさんが盗んだという証拠を向こうが出していないんですから」

 ルーシーはあくまで理詰めだ。整然とした論調にキャサリンはホウ、とため息をついた。

「ルーシーは頭が回るし口が立つわ。すごいのね」
「ありがとうございます。私、官僚として宮廷に勤めたいと思っているので」
「勤め?」

 アーサーが目を丸くする。

「君は男爵家の令嬢だったと思うが」
「ウチは貧乏なんです。どこぞの夫人におさまるのは無理だと思います。持参金も用意できませんし、うちと縁組したら下手すると借金を連帯して負うことになるので相手が見つかりませんよ。自力で生きていく覚悟はできています」

 胸を張って言い切るルーシーに、アーサーもキャサリンも絶句する。どちらも侯爵家・公爵家の血すじで何不自由ない生活しか知らないのだ。

 でもルーシーは身の上を不幸だとは思っていなかった。やりたいことをして、好きに生きられる。そんなに楽しい人生ってあるだろうか。
 キャサリンにしてみればルーシーは初めて出会うタイプの女性だ。しきりと感心している。

「ルーシーは、おもしろい方ね」
「お褒めにあずかり恐縮です」

(僕は……なんというか怖いけどな)
 アーサーは誰にも聞こえない小声で言った。


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