司くんに愛されすぎてる。
慎重に、はぎのくんの元まで一歩、二歩。
駆け寄りたい衝動を抑えてるのか、はぎのくんはドアレールギリギリで前のめりになって耐えてる。
上級生のクラスに入っちゃいけないって瑠璃の教えを、ちゃんと守ってるみたい。
案外律儀なとこがある。
あと数歩で司くんの手が私に届く、そのぎりぎりのところで立ち止まって自己防衛した。
「……何かご用?はぎのくん」
先輩ぶって、澄まし顔で。
ガーンって、わかりやすい効果音が聞こえた。
それから、はぎのくんは拗ねたみたいな顔をする。
きゅっとへの字に結んだ唇が小さい子みたいだった。
「……かなちゃん。手、出して」
手?なんで?
頭にはてなを浮かべながら、反射的に右手を差し出す。
そしたら、その手をぱっと取られて引っ張られた。
「――よっしゃ!俺の勝ちっ」
くしゃっと目を無くして笑う、キラキラの笑顔に目を奪われてるうちに。
トトっと前のめりになって、気づけば教室と廊下の境界線を跨いでる。
「じゃあね、お友達先輩」
「あっ」と言う顔をした和樹の足が一歩前に出るより早く、はぎのくんは強く私の手を引いて全速力で駆け出した。
私の知ってるつかさくんは、こんなに強引な子じゃなかった。
帰っていく生徒の間を縫って、足がもつれそうになりながら。
走って、走って。
窓に差す春の日差しがベージュ色の髪に反射するのが綺麗だな、なんて思ってた。