司くんに愛されすぎてる。
「あのっ……」
和樹が纏う圧に気づかないのか、押し付けられた資料を溢しそうになりながら新入生くんはしぶとく前のめりで私に迫ろうとする。
苛ついた和樹が私の前に立ち塞がろうとした時、1年A組の教室から、黒髪短髪の男の子が出てきた。
「司!おっせーよ!
初日から遅刻かと思ったわ!」
机を倒すんじゃないかって勢いで前のめりになっている、“司”と呼ばれた新入生くんの首根っこを黒髪の彼が掴んで引っ張る。
「翔ちょっと待った!今取り込み中で……」
「この状況で何を取り込むことがあんだよ!
いきなり上級生に絡むな!ほら、行くぞ!」
“翔”と呼ばれた黒髪男子が、ジタバタしてる“司”くんを有無も言わさず教室に引き摺り込んでいく。
和樹の背中に半分隠れてる間に、訳もわからないまま嵐が過ぎ去っていった。
時間になって、1年生の担任になる先生達がやってきて、それぞれの教室に入っていく。
“司”くんでA組は最後だったから、資料もコサージュも売り切れていた。
廊下に同じように並んでいた受付を、係の生徒達が一斉に片付け始める。
それで和樹の緊張もやっと緩んで、ため息と一緒に私の方に振り返った。
「奏、だれ?あれ。知り合い?」
「――や、知らない、と、思う」
ふるふると首を横に振る。
けど、あっちは私の名前を知ってたから、答え方は曖昧。
それに、なんか、ちょっとだけ。
あの面影に見覚えがある気がするの。
「……そ。けど、気をつけなよ?あっちは一方的に奏のこと知ってるっぽかったし」
「うん、そうだね……」
受付セットを片付けながら、和樹がジト、と1年A組の教室を睨む。
綺麗な顔がピリッとした空気を醸すと、かなり怖く見える。
「和樹、なんか怒ってる?」
「別に。怒ってはない」
(いやいや、怒ってるよ。絶対)
だって怖い顔したままだもん。
だけどこれ以上粘ってもいいことなさそうだから、黙っておくことにした。