女嫌い心臓外科医の執着愛に知らぬ間に火がついて~嫌い同士の契約結婚だったのに愛し尽くされました~
沙友里は断りをいれると電話にでて、店の外に急ぎ出る。その途中で聞えてきた声は逼迫していた。
「え!? 入稿データが違う? どういうことです?」
しばらく電話をし、席に戻って来た沙友里は顔の前で手を合わせて申し訳なさそうにした。
「ごめん! 急いで事務所行く用事ができちゃって」
「仕事のトラブル?」
「うん。今日納品の広告データが間違ってたらしくて、急いで事務所戻って修正しなくちゃなの。だから急だけど帰らせてもらうね。この埋め合わせはまた今度」
沙友里は手早く荷物をまとめると支払い分を置いて席を立った。
「大丈夫。気を付けて行ってきてね」
「ゲカさん、申し訳ないけど今日はここまでにしましょ」
「ええ、楽しかったです。またぜひお会いしましょう」
急な申し出にもかかわらずゲカは気を悪くした様子もなくにこにこしている。いい人そうでよかった。
「雪音は帰りひとりで大丈夫?」
「うん。まだそんな遅くないし」
慌ただしく帰る沙友里を見送ると、雪音も荷物をまとめた。沙友里がいなくなったというだけで、途端にどうしたらいいかわからなくなる。早めに退散しようと、そそくさと席を立つ。
「今日はありがとうございました。では……」
「まってくださいユキネさん。せっかくなので、僕らふたりでもう少し楽しみましょうよ」
突然名前を呼ばれ、表情が凍り付く。
「なんで……」
そう呟いてから、さっき沙友里に本名を呼ばれていたことに気が付きはっとする。しまった、うっかりしていた。
「そんな怖がらないでください。コロンさんにぴったりな綺麗な名前で憶えてしまっただけです。漢字は空から降る雪ですか? まだ来たばかりなので、もう少しだけ話しましょう。ほら、お酒もまだ残っているし。ね?」
椅子に座るように促される。呼び出してすぐに解散も申し訳ないという思いもあったため、断れずにおずおずと座った。
(どうしよう。ひとりじゃ喋れない)
「では、少しだけ……」
グラスには半分ほどカクテルが残っていた。たしかに、残すのも失礼だし飲み終わったらタイミングで帰ることにしよう。
「まめ太郎さんはお忙しい方なんですね。営業職なのかな」
何を話したらいいかわからず困っていると、ゲカが話題を振ってくれる。仕事の話なら共通点があり話しやすい。病院で先生と話していると思えば気が楽かもしれない。
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