女嫌いな心臓外科医の契約妻になりました
いつのまにかまた名前で呼ばれている。
(どうしよう気持ち悪い)
目が回りもうだめだと思った時、聞き覚えのある声が届いた。
「やめとけ。そいつは偽医者だ」
同時に、ほぼ距離のなかったふたりをばりっと剥がされ、間に体が割ってはいった。
涙目で見上げると、不機嫌そうな匠がこちらを見下ろしいていた。
なぜ匠がここにいるのかわからず、呆然とその顔を見上げる。
「おい急になにするんだよ!」
ゲカが声を張り上げると、店内のひとたちがこちらに注目するのがわかった。
「くだらない嘘でナンパしてないでさっさと帰れ。あと大きな声をだすな。店にも迷惑だ」
「はぁ? 嘘? 嘘ってなんだよ」
ゲカはどんどん口調が悪くなる。最初の印象とは大違いだ。店長は対応に来ようとしていたが、匠が来なくて大丈夫だと静止の合図を送った為、すぐに駆けつけられる距離で行方を見守っている。
「君は医者じゃない」
「なんでそんなこと分かるんだ。そっちこそ適当な事言うな、気分が悪い。ユキネちゃん外へ出よう」
ゲカが手を伸ばしたので、雪音は慌てて立ち上がり後ろにさがった。同時に匠が前に立ちはだかり雪音を背中に隠す。
匠はため息をつくと、ゲカをじっと睨んだ。
「本物だと言い張るなら質問しよう。医師免許を見せてくれ」
「医師免許? そんなの持ち歩かないだろ何言ってるんだ」
ゲカは顔を歪めてはっと笑った。
医師免許は通常持ち歩くものではなく、賞状のような大きさの紙で家に保管するようなものだ。医師ならば当たり前に知っていることで、初めから嘘つきと決めつけてかかる質問にハラハラとした。
「ふうん。初歩は勉強しつるようだな。じゃあ……滅菌グローブのサイズは?」
「グローブ?」
「手術用の手袋だよ。昨日も手術に立ち会っていたんならわかるだろ」
「そ、そんなのMだよ! 意味わかんないこと聞くな!」
その答えで雪音は息を呑む。
(この人、嘘をついてる……)
手術用の滅菌手袋のサイズは、SMLといった一般的なサイズ表示ではなく、『6』や『7』といった数字だ。
「滅菌グローブのサイズはインチ表記だ。普通の手袋とは違う」
呆れたように匠が言うと、ゲカは薄暗い店内でもわかるほど顔を真っ赤にした。
「ちょ、ちょっと間違えただけだろ! 言いがかりをつけるな!」
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