女嫌いな心臓外科医の契約妻になりました
「では本名は? 所属病院に確認をとる。医師紹介ページに掲載があるだろう。本当に名前があったら謝罪しよう。あとはさっきも質問されていたのに答えていなかったが君はいったい何を専攻している? 外科といっても分野は豊富なんだが」

「あ、え、し、心臓! 心臓外科だよ」

雪音はあっと口を抑える。よりにもよって匠の専攻を言うなんて。

「お前こそ何者だよ! いちゃもんつけてきやがって」
「この子と同じ病院に勤務する心臓血管外科医だが」

それを聞くとゲカは「ひぇっ」と小さく呻いた。

「昨夜の君にしか出来なかった難しいオペレーションについて興味がある。患者に何かあったら訴訟にもなりかねない、医師であれば誰しもが言わないであろう『絶対助ける』などというセリフを言えた理由も併せて、ぜひ聞かせて貰おうか」

匠が一歩を踏み出すと、ゲカは「ふざけんな」と叫びながら店外へ飛び出してしまう。

匠の勝利のような結果に、行方を見守っていた店内の客と店員は「おぉ」と小さく歓声をあげ、パチパチと軽い拍手をした。
雪音は唖然としたままその場で腰を抜かし、カウンターにへなへなと寄りかかった。

匠はため息をつくと、「おい、帰るぞ」と雪音のバッグとコートを取る。

店長と知りあいだったのか親密そうに何言か話すと、自分と雪音たちの支払いまでもを済ませ、さっさと店を出た。
背中を押されるように店をでた雪音は、外の冷たい空気が頬に当たるとやっと意識がはっきりとする。

「あ、あの、すみませんでした! 助けてくださってありがとうございます」
匠に支払いを任せてしまった。慌ててバッグの中の財布を探る。

「会計は……」
「君は馬鹿か!」

いきなり頭の上から怒鳴られ、財布を握りしめたまま肩をすくめた。

「何をやってるんだ。偽医者なんかにだまされそうになって」
「ご迷惑をおかけしてすみません。あの、お支払いいくらでしたか?」

店にも匠にも迷惑をかけてしまい恥ずかしい。やはりマッチングアプリなんて雪音にはハードルが高すぎた。

「支払いは気にしなくていい。それよりなんであんな素性のわからない男と居たんだ。店長から出会い系のようだったと聞いているが?」
さっき店長と話していたのはこのことか。

匠は秀夫の病室で会うときと全然態度が違い優しさが全く感じられず、寧ろ蔑まれているような感じがした。
「おっしゃる通りです。初めてお会いしました……」
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