女嫌いな心臓外科医の契約妻になりました
正直に言うのはとても恥ずかしい気持ちだった。マッチングアプリ自体が悪いわけではなく、身の丈に合わないことをして他人に迷惑をかけてしまったから。
誘われたときに、自分には難しいときっぱり断るべきだったのに。
「まったく、先生が入院で大変な時に男漁りをするなんてがっかりだ」
男漁りと言われムッとする。理由も知らず、さすがに言い過ぎではないか。
「確かに浅はかな行動でしたけど、真剣にお付き合いできる人を探していますし、職業を偽る人がいるなんて知らなかったんです」
「ふん。どうだか」
全然信用されていない。
匠のこのような振る舞いには見覚えがある。仕事中に言い寄る女性に対していつも彼はこんな風に軽蔑の態度を取っていた。
「君の言い訳なんてどうでもいい。二度と出会い系など手を出さないように。いいから今日はもう帰れ」
匠すぐに背を向けて歩き出した。
普段から秀夫の主治医で世話になっており、今日は偶然居合わせただけなのに助けてもらい、しかも三人分の支払いまで済ませてくれている。
支払い分は返したいし、せっかく秀夫を尊敬してくれているのに娘はダメなやつだと思われたままなのも悔しく誤解を解きたい。
「深沢先生! あ、あの助けていただいてありがとうございました。ご連絡お伺いしてもいいですか。改めてお礼をさせてくださいっ」
数歩離れた匠を慌てて呼び止めると、匠は冷たい目で振り向いた。
「あの男がだめだったら今度は俺か? 節操ないな。あの人の娘とは思えない。医者がいいなら良原先生からいくらでも紹介して貰えばいいだろう。君みたいな女でも先生の力で数人候補は出るだろうから」
――あの人の子供とは思えない。
その言葉にすぅっと心が冷えた。
「先生も先生だ。奥様が疲労困憊のこの時期に遊び歩かせて……一人娘だからって甘やかしすぎじゃないか?」
「遊び……?」
今日のことは雪音の判断ミスだから責められても仕方がないし、確かに秀夫の本当の子供じゃない。
しかし、育て方に問題があると思われるのは我慢できなかった。秀夫も真弓も優しく、時には厳しく大切に育ててくれ自慢の両親だ。
それに、秀夫と真弓を軽んじたことなどない。見舞いはほぼ毎日通っているし、少しでも負担を減らしたくて家事は率先して行っている。
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