女嫌いな心臓外科医の契約妻になりました
「病院に勤めてから良原先生にのご自宅に招いていただいた時に知り合いまして。長い間アプローチしていたんですよ。正式なお付き合いは一年ほど前ですかね」
打ち合わせをしていないのに、匠はスラスラと馴れ初めを語った。

「ははは、そうか。君がどんな女性からアプローチをうけても片っ端から断っていると聞いてはいたが、まさか良原先生のお嬢さんに夢中だったとはね」
雪音は顔が引き攣りそうになるが、匠は涼しい顔をしていた。

「特に結婚は急いでいなかったのですが、良原先生にご病気が見つかってから、ふたりで話し合い早く籍を入れて安心させてあげたいとなりまして」
近々結婚するという話になっていて、雪音は隣の匠をみて目で講義した。

「そうかそうか。おめでとう。結婚式にはぜひ招待してくれよ」
「パパ酷いわ! 今日は匠先生との仲を取り持って欲しくてお願いしてたのに!」

娘がバンとテーブルを叩いて立ち上がる。

「騒ぐのは辞めなさい、みっともない。今日は深沢君と食事だと言ったらお前が勝手についてきただけだろう」
「だって、ずっと付き合いたいって伝えてたじゃない! どうにかしてよ病院で一番偉いんでしょ⁈」

「良原さんと別れて、俺の娘と結婚しなさいと言うのか? それで深沢君が俺を恨んで病院を辞めたりしたら大問題だよ」
院長は困りながら娘を宥めた。

「僕が愛するのは雪音だけです。彼女なしの人生など考えられないんです。せっかくの好意に応えられなくてすみません」
熱の籠った目と優しい口調。これがその場限りの嘘だなんて一体誰が思うだろう。

映画のワンシーンのようなセリフに、雪音までもくらりときた。
それまで肩を抱いていた手が、愛おしそうにさらりと髪を撫でる。

緊張でドクドクとしていた動悸がより激しくなった。それは彼に見惚れたのかいつもの緊張なのか……。

「あたしに恥をかかせて! 許さないんだから!」
院長の娘は捨て台詞を吐くと勢いよく席を立ち店を出てしまった。

怒鳴られると相手が女性でもビクリとしてしまう。匠が震えに気がついたようで背中を宥めるように叩いた。

「まったく我儘な娘ですまない。あれのことは叱っておくので気にしないでくれ。良原さんには嫌な思いをさせて申し訳ない」
「いえ、急にお伺いしたのは私ですから」

院長が申し訳なさそうにしたので、雪音も慌てて頭をさげる。
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