女嫌いな心臓外科医の契約妻になりました
笑いながらお礼を告げると、匠は居心地悪そうにした。

「これで震えるくらいなのに、よく出会い系など」
「ですよね。お付き合いする相手を探すというより、とにかく男性と会話を楽しむことができたらと思ったんですが……」
「聞けば聞くほど、俺が適任だな。俺なら雪音の練習相手にちょうどいいし俺も女避けが出来て万々歳だ」
「――あ!」

急に思い出して匠を見ると、それまで撫でていた手をピタリと止めた。
「そう言えば、院長に結婚するだなんて嘘を言って……! バレたらどうするんですかっ」

恋人なら後々別れたで済むのに、結婚の日取りまで決まっているような話になってしまった。両家を巻き込むほど、話が大きくなりすぎだ。

「嘘にしなければいいだろう」
匠はニヤリとする。

「今のままじゃあ十年後にどれだけ克服できてるんだ? 父親を喜ばせる医師で昔からの顔見知り。それに加えて雪音に興味が無いとなればリハビリ相手にもってこいだろ」
確かに信頼度は抜群だ。けれどそんな簡単に結婚は決めるものじゃない。

「深沢先生は別に私じゃなくてもいいじゃないですか」
「いいや、雪音がいい。年頃で俺に興味が無いだなんて好条件にはなかなか出会えない。さらには良原先生の娘となればまわりも納得してとやかく言わなくなる」

「わたしはリハビリじゃなくて家族愛が欲しいんです!」
「だから、その家族愛にたどり着くまでにも結局リハビリが必要だろ。それがどこかの知らない男より俺の方が話がスムーズだと思わないか? 医師として責任をもって面倒はみる。その間、俺を助けてくれって話だ」

(いい話のような、でも違うような……)
頭が混乱して何が正解なのかわからなくなってきた。

「すぐに俺たちの噂は広まるぞ。雪音を抱えてチェックインするとき、居合わせた看護師グループに見られたからな」
「ど、どうして……」
「隣のレストランのケーキフェアに来ていたようだ」

そう言えばホテルのホームページを調べた時に、苺のデザート特集が掲載されていた。
なんて運の悪い……見られた状況を想像するだけで冷や汗ものだ。

「そう言うことで、今後も頼む。じゃあ、あとはゆっくりしてくれ宿泊してもらって構わない。しばらくは別の部屋にいるが、この後仕事なんだ。ホテルには具合が悪くて休んでいることを伝えてある。バトラーを待機させてるから体調が悪化したらすぐに呼ぶように」
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