女嫌いな心臓外科医の契約妻になりました
ぺたんこの座布団を差し出されたが、首を振って遠慮する。
匠の表情が訝しげになった。

「どうしたんだ? 愛美に嫌がらせでもされた?」
「違います。あの。っあ、あの……! あなたとの結婚、お受けさせてください!」

言い切るとがばっと頭を下げる。

「一度お断りをしておいて、大変わがままだと思いますが、父と母にすぐにでも幸せな姿を見せて安心してもらいたいって思ったんです。だから、まだ遅くなかったらぜひお願いします」
こんな言い訳がましいプロポーズが他にあるだろうか。

匠が何も言わないので雪音は焦りをどうにか誤魔化そうとペラペラと喋る。

「もちろん契約婚です。好きになることはないですし、普段も匠さんにはご迷惑おかけしないように努力します。解消したくなりましたらいつでも大丈夫で……」
「あーもういい。とりあえず落ち着け」

匠が立ち上がる。

「触っても?」
「だい、じょうぶ、です……」

努力すると言った手前、今はちょっとなどと言えずに頷く。
ぽんと頭に手が置かれ肩に力が入る。

「真弓さんの件か」
「知ってらっしゃったんですか」
「そりゃあな。患者の情報は入ってくる。大変なことが続いてかわいそうだと医局で噂もされてたし」
匠は犬を撫でるかのように、頭をくしゃくしゃと撫でると口の端を上げた。

「契約結婚といえど、俺は君に不誠実なことはしない。それだけは誓おう」
「そ、それは受けていただけるってことでいいですか……?」
「まったく君は……他にどんな意味が?」

匠は少し呆れ顔だ。

不安はある。けれど今、自分の願いを叶えられるのはこの人しかいない。

「わ、わたしも、精一杯役割を務めさせていただきます」
雪音の硬い返事に、匠は本当に大丈夫なのかというように訝し気に見る。

「外では愛し合っていると見えるように振舞ってくれよ?」
「はいっ」
もう後戻りは出来ない。気合を入れて返事をした。

「よろしく。俺の奥さん」
匠は握手を求めたが、雪音はその手を握り返せずにじっと見つめた。

「――怖い?」

微動だにせずにいると、頭の上から匠の声が落ちてきてはっと顔を上げる。
まっすぐな瞳に見つめられ、緊張で呼吸が浅くなった。

「い、いいえ」
握り返そうとゆっくりと手を伸ばすが、指先が小刻みに震えていた。
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