女嫌いな心臓外科医の契約妻になりました
決意から二日後には雪音の両親に挨拶を済ませ、さらにその三日後の今日は引越しで匠の家を案内してもらうことになった。

引越しと言っても、まだまだ秀夫のと真弓の体調が万全ではないので、実家といったりきたりすることになる。

結婚したいと報告した時、真弓は良かったと泣き出した。
「ふたりはいったいいつから。男性恐怖症は治ったのかい?」
秀夫が目を丸くする。

「治ったわけじゃないけど、匠さんだとどうしてか安心できるの……」
雪音に顔を真っ赤にしてそう告げると、ふたりにはこれがまた効果的面だったようで何の疑いもなく納得した。

「幸せになるんだよ」
涙を浮かべて喜んでくれるふたりに、雪音の胸も熱くなった。

***

「うちのレジデンスはセキュリティ高いから、部外者は入れないようになっている」

匠の住まいは病院近くの低層レジデンスだった。五階建でワンフロアに二世帯しかおらず、一階はロビー、二階はジムフロアとプールになっている。

時間がないのによくジム通いができるなと思っていたが、住まいの別フロアに設備があるとなれば納得だ。
指紋でセキュリティロックを外しレジデンス内に入ると、コンシェルジュに出迎えられた。

同居者として登録手続きをし、ICキーを貰う。
匠の部屋は五階なので、エレベーターで上がった。

2LDKだがリビング、キッチン、洗面全てがとても広い。

「すごい……リビングは何帖くらいあるんですか?」
「さあ? 入居の時に三十って聞いた覚えがあるかも」
「あの、わたしお家賃を半分払えそうにないのですが……」

あまりの高級仕様に不安を覚えながら申し出た。

「お金のことは心配しなくていい。家賃を貰おうなんて思っていないし」
「でも、一緒に暮らすんですし……」

医師が世間に思われるほど給料が高くないのを知っている。残業は当たり前で、昼夜問わず働き、休日も呼び出され人の命と向き合っているとなれば少ないくらいではないだろうか。

(この間のホテルといい、どうしてこんなに経済的に余裕があるんだろう)

雪音の考えてることがわかったのか、匠が話してくれた。

「学生のころ起業して、【医療サプリ】っていうアプリを開発したんだ」
「えっ、それわたしも使ってます」

近くの病院の検索、来院予約やかかる前に病状を確認できる機能がありダウンロード数は医療系では国内一だ。
【薬辞典】といって説明書もあり、最近ではAI相談もリリースされている。

「その権利はもう売ってしまったが、今でも監修で関わっているからそちらの収入もあるんだ」
医学生は忙しいと聞くのに、アプリまで開発してしまうなんて多才な人だ。

暫くは二重生活になるので、匠の家で必要になりそうな生活品は買わなくてはと思っていたら、コンシェルジュ経由で全て揃えてくれた。

夕方前には部屋に届くというので、匠と雪音はその間に指輪を買いに行くことになった。話し合い、偽の関係とはいえ必要との結論に至ったためだ。
まるでデートのようで少しばかり気分が高揚する。

電車にのり表参道まで行くと、世界的に有名なブランドショップに入ろうとしたので引き留めた。

「匠さん、こんな素敵なお店じゃなくてもいいですよ!」
「苦手か?」
「いえ、好きですよ。憧れますが私たちは偽物の関係なのに……」

大学生の頃、このブランドのネックレスを彼にプレゼントしてもらったと、嬉しそうに話す友人が羨ましかったが、しかし、そこまでしてもらわなくてもいつかは解消するのだから安物で十分だ。

「じゃあここでいい。契約だとしても雪音には夫としてちゃんとしてやりたい。お義父さんとお義母さんにも幸せな姿を見せていかないと」
両親の名前を出されて気が引き締まる。

「そうですね。ではこちらでお願いします」
< 40 / 74 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop