女嫌いな心臓外科医の契約妻になりました
匠の言い分は最もだ。しかし、こんな高級な店に入るのは初めてだし、相場がわからずソワソワとした。
あまり高くないものだといい。

店内は白を基調としたデザインに、陽が差し込む設計の天井にステンドグラスの装飾があり、華やかだった。ブライダルをあつかうフロアは店舗の二階のようで、お城のような絨毯敷の螺旋階段を上る。

「触れても?」
匠が耳元で囁いた。

雪音が頷くと、腰に手を回されふたりの体が近くなる。

事情を知ってから彼は必ず声掛けをしてくれるようになり、優しく気遣いのできる人なのだとわかった。
匠は微笑むとゆっくりと歩き出す。包み込むような優しい瞳に、緊張だけではない不思議な気持ちになった。

ガラス張りのケースに指輪が並び、どれを見てもため息が出るほど綺麗だ。
その中に、少し前にモデルが着用しているのを雑誌で見て、素敵だと思ったデザインを見つけ足を止めた。

シンプルなプラチナのリングの真ん中にダイヤがひとつ付いている、古くから愛されているデザインだ。ありきたりだが、物語のお姫様が王子様から貰うものによく似ていて、いつか自分もこれを着けられたらと、とても憧れていた。

「気に入った?」

匠も屈み、ケースの中のその指輪を確認する。体が密着したままだったからか、顔が雪音の真横に来て頬が熱くなった。

(素敵だけど、いくらなのかな……)
値段がわからず首を横に振った。

「いえ、見ていただけですから」
「雪音には甘え方も教えないといけないな」

匠はスマートに店員を呼ぶと、雪音が見ていた指輪を出してもらうよう頼んだ。

「匠さんっ」
動揺している間に、目の前に夢見ていた指輪が用意される。

「手を出して」
「は、はい」
匠は雪音の手を取ると、左手の薬指にゆっくりと嵌める。

「うん。雪音のイメージに合う。少し緩そうだから、もうワンサイズ小さいものを試させてもらおう」
匠は冷静に確認するが、雪音は感動してそれどころではなかった。

――この瞬間をどれほど夢みたか。

もう自分には恋愛はおろか、結婚などできるはずはないと思っていた。

景色の綺麗な素敵な場所でプロポーズをしてもらい、結婚式は白無垢もドレスもどちらも着たい。新婚旅行は海外に行って、子供ができたら毎日家族で笑い合い日々を過ごす。

そんな夢は叶わないと、もう殆ど諦めていた。
だから嘘でも嬉しかった。

「ありがとうございます。嬉しい」
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