女嫌いな心臓外科医の契約妻になりました
「わざわざ女子校ではなく共学を選び、雪音なりにトラウマを克服しようと努力していたが、なかなか難しかった。このままだと、わたしたちが居なくなったら、また雪音は独りになってしまうのではないかと心配していたところに現れたのが匠君だ」

(――知っている)
その事情を聞き、利用できると思った自分は最低だ。

「ありがとう。雪音がこれほどまでに心を開いているのは君が初めてなんだよ」
「いえ、そんな……」
「どうやって雪音の心を仕留めたんだい?」

からかいまじりに言われたが、匠は逆に苦々しい気持ちになった。

「はじめはわたしが心配だから君の部屋へ行くのは週二、三日だけと言っていたのに、今週は逆に二日しか帰ってこなかった」
「はぁ」
返答に困りコーヒーを飲んで誤魔化す。

「君に会いに行くのは本当に楽しそうでね。娘を嫁にやる父親の気持ちを経験できると思っていなかったから、匠君には感謝しつつ複雑な気持ちだよ」
「すみません」

謝る必要などないのについ口をついた。

「子供がたくさん居る孤児院にいたからか、あの子も子供が好きでね。兄弟が欲しいと言っていたが叶えてあげられなかったのが、真弓も私も心残りだよ。兄弟は難しいと理解できた時、自分が大人になったら、赤ん坊を十人産んで家を遊園地のように毎日遊べる場所にするのだと言っていたのが懐かしいな」

秀夫は幼い頃の雪音を思い出し、肩を揺らして笑った。
匠もそんな雪音を想像して微笑ましくなる。

「……守ってあげたいと思ったのがきっかけでした。けれど彼女は、いつも自分で何とかしようと努力していて、そんな芯のある姿に惹かれました。
いつしか、ずっと一緒に笑い合っていたい人だと思うようになり交際を申し込んだんです」

「そうか。夫婦となると色々あると思うが、末長く幸せでいて欲しい」
頭を下げられ、匠は覚悟を決めて頷いた。

「――はい」
たくさん愛して、雪音を必ず幸せにしよう。

こんな熱い気持ちが胸に滾るのは初めてだった。


***

玄関のドアを開けると、出汁のしょっぱい香りと油の香ばしい匂いがした。

「匠さん、おかえりなさい」
リビングに入ると、キッチンから雪音がひょこっと顔を出す。

手が離せないらしくすぐにひっこんだ。

「ただいま。今日は蕎麦と天ぷら?」
上着を脱いでキッチンへ行くと、蕎麦が茹で上がっていた。
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