女嫌い心臓外科医の執着愛に知らぬ間に火がついて~嫌い同士の契約結婚だったのに愛し尽くされました~
様子を伺いつつ頭を上げると、怒るでも恐怖に振るえるわけでもない、顔を真っ赤にし目を潤ませた雪音がいた。

「雪音……?」
なんだこの雪音の反応は。

「悲鳴をあげてごめんなさい。でも、驚いただけで……そんな、匠さんが怖いわけないです」
耳を疑った。

(俺が怖くない?)

気を遣ってくれたのだと納得し、改めて謝った。恐れている男に突然性的な行為をされたらそれこそトラウマになる。出会い系の男より最低ではないか。

反省しつつも、なぜ自分がそんなことをしてしまったのか不思議だった。自制は効くはずなのに彼女に触れたくて、吸い込まれるようにキスをしてしまった。

「ありがとう、雪音は優しいな。でも俺の前だけは無理をするな」
「違うんです本当に。怖いわけじゃなくて、恥ずかしかっただけで……お願いですから帰れなんて言わないで」

それまで耐えていたのに、突然涙をこぼす雪音にひどく取り乱した。

「な、泣くな。ああどうすれば」
なんて男気のない。こんなときどうすればいいのか。

涙を拭うこともできず、カウンターに置いてあったティッシュを数枚引き抜く。

「雪音」
雪音はティッシュを受け取ると目に充てた。
グスッと鼻を啜ると、ゆっくりと手を差し出した。

「怖くないですから。離れようとしないでください」

雪音から触れようとしてくれたのは初めてだ。感動しながらその手を見つめ、反応を探りながらゆっくり手のひらを合わせる。

「大丈夫か?」
「はい」
そのままゆっくりとした時間が流れた。

「どうしてでしょう……」
雪音がぽつりと溢す。

「すごく不思議な気持ちなんです。匠さんに触れられるとドキドキはするんですけど、怖いと言うより、胸がきゅってなるっていうか……」
「あぁ」

大きく天井を仰いで、気持ちが落ち着くように息を吐いた。

(それを聞いて、暴走しなかった俺を誰か褒めて欲しい)

それはつまり、匠を意識していると言うことだ。

「匠さん? すみません、お気を悪くされましたか」
「違う。堪らなくて」

雪音はわかっていないようだった。頬を赤く染めたまま理解できない様子を見せた。

「抱きしめてもいいか?」
「えっ、だ、抱き……?」

口をあんぐりと開けて驚いている雪音に、畳み込むようにもう一度告げた。

「雪音を抱きしめたい。許可を」
「は、はいっ」
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