女嫌いな心臓外科医の契約妻になりました
メインはムースだろうか。その上にメレンゲで作られた丸いディスクが乗り、フランボワーズのソースとピスタチオのフレークがかけられていて色鮮やかだ。

「食べながらでもいいから聞いてくれ、大切な話がある」
急に畏まった匠に、なんだろうと背筋を伸ばす。

匠は鞄から小箱を取り出すと、それをテーブルの上で開いて見せた。
箱の中には、ふたりで選んだ結婚指輪がふたつ並んで光る。……が、少し選んだものと違っていた。元のデザイン、ふたりで選んだものはシンプルなプラチナのリングだけだったが、ダイヤが散りばめられたデザインに変更されていた。

「匠さん、これ……」

いつかは別れなくてはならないのだから、高価なものではなく価格を抑えたものが嬉しいと伝えており、匠も了承したはずだった。

「まず俺は、君に謝らなければならない。互いに都合がいいからと半ば強引に契約結婚を迫ったうえ、女性は嫌いだから好意を持たないで欲しいと伝えていたのに、そのルールを破ってしまった」

匠は言葉を選びながら、ゆっくりと話す。いつもの自信に満ち溢れている彼とは違い、探り探りという印象だ。
ルールとはなんだろう。雪音のトラウマを克服出来るまで付き合ってくれると言っていたが、もしやもう離婚の日付が決まっているとか……?

それとも雪音の気持ちがすでにバレていて、一緒にいるのが嫌になってしまった? 指輪が変更されたのは、彼なりの優しさなのかもしれない。
閃くと、もうそうとしか思えなくなった。

隠し通そうと思っていたのに、自覚したばかりでこんなにもはやく悟られてしまうなんて。きっと匠は、雪音さえも気がついていなかった気持ちに前々から勘付いていたんだ。

「すみません! わたしもこんなつもりじゃなかったんです」

(どうしよう)

これまで見てきた女性のように、話しかけるなと冷酷な態度をとられたら立ち直れそうにない。
「ずっとそうだったわけではなくて、自覚をしたのはほんの、つい今朝のことで」

(やっと心を許せる人に出会えたのに)

叶わないとわかっている。匠に迷惑はかけないようにするから、もう少しだけ一緒にいたい。

「だから騙していたわけではなくて……」
「待ってくれ、なんの話だ?」

匠は不思議そうにする。

「ルールを破ったとおっしゃったので、わたしの気持ちを知って不快に感じられたのかとおもって……」
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