女嫌いな心臓外科医の契約妻になりました
不愉快だろうなと顔色を伺うと、匠は一瞬だけ驚きそして笑った。

(あれ……?)

「雪音」
手を差し出されたので、すっとそこに手のひらを重ねた。
そこにはもうなんの抵抗もない。

「どうやら、ルールを守れなかったのはお互いのようだな」
匠は更に笑みを深め告げた。

「俺は雪音を愛している。いつの間にか君に惹かれていて、俺が一生守りたいと思ったんだ。契約関係といのは撤回させてくれ。本物の夫婦になろう……改めて申し込むよ。俺と結婚してください」

イエスともノーとも言えずに瞬きをした。
どういう意味だろう。結婚に夢を見ていた雪音に気遣って、思い出づくりをしてくれているのだろうか。

でも、匠は互いにと言っていた。それはつまり。

「愛してる……?」

「そう。この話を婚姻届を出した後にするのはフェアではないだろうが、俺は雪音との生活を続け、君の心がこちらへ向いてくれるのを期待した。だからずるいと言われようと、俺はまずは雪音を手に入れたかった」

雪音は失いたくないから、彼への思いは隠し通そうと決意した。

そうしたら、匠に好きな人ができない限りこの生活を続けられるから。自分がこんなにもずるくて熱い気持ちを持っているなんて知らなかった。

「わたしも匠さんが好きです……」
吐息のように小さく、でも確かな返事をた。

匠も緊張をしていたのか、「よかった」と小さく息を吐いた。

「雪音は、本気の指輪はいつか誰かのために取っておいて欲しいと言ってくれたね。俺は、雪音を一生愛するという覚悟を見せたかったからこれを選んだんだ」
匠は箱から指輪を取り出すと雪音の左手にそっと嵌めた。

ぴたっと嵌ったそのフォルムを見るだけで、胸が熱くなった。じわりじわりと喜びが込み上げる。

「匠さんは好意を持たれたくないって言ってたのに、わたしはいつの間にか、この生活を幸せだと感じるようになりました。期間限定なんかじゃなくて、もっともっと、ずっと一緒にいたいです」

婚約指輪は愛の証で、結婚指輪は永遠の誓いだと聞いたことがある。
ダイヤモンドが重なり、蝋燭の光が美しく反射した。
< 57 / 74 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop