女嫌いな心臓外科医の契約妻になりました
「幼いころの傷はそう簡単に克服できるものじゃない。あの子が幸せならいいじゃないか」

「もちろんよ。でも、あの子がまたひとりになってしまわないか心配なの。私もあなたももう歳じゃない。いつ何があるかなんてわからないんだから……あの子に寄り添ってくれる誰かがいれば……」

弱々しい真弓の声からは、秀夫が突然倒れた時に襲われたであろうこの先どうなってしまうのだろうという未来への不安が感じられた。
「雪音の過去もふまえて全てを愛してくれる男が現れればいいんだけどな。雪音も子供好きだから、子供に恵まれればより幸せだろう」
「そうだ! 匠さんはどうかしら? あなた昔から匠さんに目をかけているじゃない」

「ははは、彼ならなんの文句もないし大歓迎だが、そういうのはふたりの問題だからなぁ」

突然、具体的な名前がでて体をびくりとさせる。いつか誰かがではなく、顔見知りの名前はリアルさが増してなんだか恥ずかしくなった。
彼ほどの人が女性がいないわけがないが、特定の人がいるという噂も聞いていない。

「孫か……確かに。雪音が子供を抱く姿を見れたら、思い残すことはもうないな。わたしたちが居なくなっても、寂しくさせることはないと安心できるからね」
秀夫は冗談めかして軽く笑いながら言った。

それが難しいことをわかっている口調で、ズキンと胸が痛む。
大雪の日に産まれたと聞いている雪音は、先日、十二月に誕生日を迎え二十八歳になった。

学生の時もクラスメイトと話すこともままならず、男友達さえ作ることができなかったから、これまで彼氏などいたことがない。男性は恐怖そのものなのに、そんな状態で結婚して子供まで望むなんて夢物語だ。

友達の恋愛話を聞くたびに憧れ、幸せそうに微笑む姿を見て、自分もそんなふうになりたいと思った。
大学の時、告白してくれた先輩と付き合おうとしたが駄目だった。手も繋げなかった。社会人になってからだって、合コンにだって参加したことがある。でも、ろくな会話もできず具合が悪くなって途中で帰宅してしまった。頑張ったつもりだが、うまくいったためしがない。だから最近ではめっきり恋愛ごとは諦めてしまったせいか、以前より症状が悪化している傾向がある。

「はぁ……」
これまでの自分を思い返すと情けなくてため息がでる。
どうにかしたいって思っているのに、いざ一歩を踏み出すと怖くて震えてしまうのだ。
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