女嫌いな心臓外科医の契約妻になりました
(結局、全然親孝行できてないじゃない……)
今回命に別状はなかったが、いつどうなるかわからないのだからふたりが元気なうちに安心させてあげたいのに。
ゼリーが入った紙袋を握りしめ俯く。

「入らないのか?」
その時、突然背後から男性の声がかかり肩を揺らす。

「きゃ……」
悲鳴をあげそうになり咄嗟に口を抑える。

その際にお土産を手放してしまい、足元でドサっと音がした。
声には聞き覚えがあり恐る恐る振り返ると、思った通りの人、匠が驚いた顔で固まっていた。

「……深沢先生!」
「すまない。驚かせるつもりは……」
「あ、い、いえ。こちらこそすみません!」

慌てて落とした紙袋に手を伸ばすと、匠がさっと拾って中身を確認した。

「悪い。これケーキだった? 崩れたよな。弁償する」
「いえ、カップゼリーなので多分大丈夫です。それに落としたのはわたしですし、深沢先生はお気になさらないでください」
「しかし、驚かしてしまったようだ」

紙袋を受け取りながら、本当に大丈夫だと再度告げ弁償を辞退する。
普通ならこんなに大袈裟に驚いたりしないのだから、本当に雪音のせいなのだ。

(深沢先生は手を上げたりする人じゃない。だから大丈夫)
そう言い聞かせながら、まだドキドキとする心臓を落ち着かせようと、ゆっくり深く息を吐いた。

「そういえば、フルーツゼリーを食べて大丈夫か聞かれていたな」
数日前に院内の個人アドレスに質問のメールを送って、糖質に気をつければ大丈夫だと返事を貰っていた。

「はい。ご助言ありがとうございました。」
「よく顔を合わせるんだから、気軽に声を掛けてくれればいいのに」
匠は何かおかしかったのか、ふっと頬を緩ませる。

「ありがとうございます。次回からはそのようにさせてもらいます」
どうも自分から話しかけるのはハードルが高く、ついメールにしてしまって、しかもその内容も『ご教授いただけますと幸いです』などと随分と堅苦しい文面で送ってしまったものだから、変わった人だと思われたのかもしれない。

気恥ずかしくてそっと視線を逸らした。
匠は小まめに秀夫の病室に足を運んでくれているらしく、秀夫が倒れてから毎日のように顔を合わせている。

この間は、洗濯物が入った大きな袋をもって病室に向かっている時、階段で躓き転びそうになり、偶然通りかかった匠が肩を支え助けてくれたことがあった。
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