女嫌いな心臓外科医の契約妻になりました
お詫びに関しては、雪音が結婚に至るまでの一連の流れに、謝ることがあるのかどうかわからず釈然としなかったが、沙友里曰く『そんな面白い話を逐一報告しなかった罰よ!』らしい。

沙友里には普段からお世話になっていてその恩返しもしたかったし、雑誌に載る匠を見てみたいというミーハーな気持ちもあったので了承し、匠に交渉することとなった。正式には出版会社から病院に打診があるが、その前に承諾の根回しをしておいてほしいとのことだった。

匠には以前から取材の話が何度かきていたが、医療以外の仕事はしないと一刀両断だと聞いていたので、雪音も期待はせずにとりあえずのお伺いというスタンスで話しを持ちかけた。

別のお詫びで手を打とうと考えていたくらいなのに、いざ話を持ちかけると匠は少し考えてから意味ありげに微笑んで頷いた。

『あまり得意ではない仕事だが、雪音のお願いなら受けよう』
『本当ですか? よかっ……』
『ただし、条件がある』

条件とはなんだろう。想像もつかないが、いたずらを企んでいるかのような含み笑いに雪音は一抹の不安を覚える。

『インタビューを頑張ったら、ご褒美をくれないか』
『ご褒美、ですか?』

どんな難しい交渉になるのかと警戒していたら、想像より可愛らしいお願いだった。そのくらいでいいなら気が楽だ。高価なものは無理だが匠にも日頃の感謝を伝えたいと思っていたのでちょうどいい。

『欲しいものでもあるんですか?』
『ああ。どうだ?』
『私にできることでしたら何でもおっしゃってください! 欲しいのは電化製品ですか? それとも洋服とか』

頼られたのは初めてで、自信満々に頷いた。

『まだ秘密だ。インタビューが無事に終わったら教える』

喜びを隠し切れずに息を弾ませた雪音に匠が破顔し、滅多に見られない笑いっぷりを見せてくれた。これほど笑って貰えるならいくらでもお願いくらい叶えてあげたい。ご褒美は何がいいだろうと考えるだけでワクワクし、それが明かされる日が楽しみになった。

「医療インサイトジャパンのインタビューなんてさすがよねぇ。ほら、これ見て。これは去年の冬号のなんだけど」
川島が鞄から取り出した、バサリという雑誌の音で現実へと引き戻される。
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