女嫌いな心臓外科医の契約妻になりました
愛美を咎めようとした匠を制止し、ゆっくりと顔を上げた。

「大丈夫、です」
匠は心配そうなそぶりを見せたが、それ以上は愛美を責めずに口を閉じた。
ここでまた怯えるだけでは何も変われない。

『雪音は悪くない』『大丈夫だ』と、匠が毎日おまじないのように与えてくれた言葉を思い出し、心の中で繰り返した。匠が背中に添えてくれている手が、勇気を与えてくれる。

雪音が愛美を真っ直ぐ見返すと、愛美は「な、なによ」と怯んだ。
すると、だんだんと恐怖より憤りのほうが強くなってくる。

雪音だけでなく、匠までも馬鹿にしていることに気がついていないのか。

「あなたこそ、匠さんの外見や立場ばかりしか見ていないんじゃないですか? だから彼が嫌な思いをしていることに気が付かないんです」
自分が助けてもらうばかりじゃなく、匠の力になりたい。

「何ですって?」
「匠さんは地味だとか立場だとか……スペックで相手を選ぶ方なんかじゃありません」
自分でも驚くほど、はっきりした声だった。

「誰であろうと困っている人がいれば思いやれる素敵な人です。だから患者さんにも信頼されているんです。そんな気遣いのできる匠さんだから、私の情けない部分を曝け出しても理解して、受け入れてくれました」

匠がいてくれたから、諦めかけていた未来をまた夢見られるようになった。

「私は……匠さんを心から愛しています。その気持ちは、愛美さんにも負けません」
愛美は唇を噛み怒りで震えている。

これまでこんな風に言い返すことなどあっただろうか。嫌われることを恐れ、人の影にかくれてばかりいた気がする。変わりたいと願っていても、あと一歩の勇気が足りなかったように思う。その一歩踏み出す勇気をくれたのは匠だ。

もう一度叩かれたって大丈夫。強い気持ちで視線は逸らさなかった。
雪音の様子を見て、匠は肩の力を抜き表情を和らげた。
労うように、雪音に添えていた手をポンポンと動かす。

「君は勘違いしている。雪音が迫ったわけじゃなくて、俺が雪音に惹かれて交際を申し込んだんだ。それに、たとえ彼女と付き合っていなくとも、俺が君に惚れることはない」

匠が言い返すと、愛美は目を見開き顔をくしゃりと歪ませた。

「侮辱して……許さない……あ、あんた達なんかクビにしてやるんだからっ!」
「君にそんな権限はない。すみません、この人を連れ出してください」
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