女嫌いな心臓外科医の契約妻になりました
「医者より王子の方が言うことを聞きそうだからな」
どうも過去のセカンドオピニオンを希望した件を根に持っているようだ。

「匠先生のことだってちゃんと聞いてるのに」
ベッドに降ろされ、水を飲む。

「めまいとかない?」
「大丈夫」
「じゃあ、……抱いても? 絶対無理はさせない」

珍しく甘えを含んだお願いが、可愛く見えてしまう。
雪音は破顔すると、返事のかわりに匠の背中に手を回した。


二日目は遅く起きると昼までヴィラでゆっくりした。午後はスパで癒され、夕方になると海辺を散歩し絶景ともいえる夕焼けを堪能した。

心身ともにリラックス出来ているはずなのに、眠気が治まらず三日目も寝坊してしまった。朝昼兼用のランチを軽食で済ませると、砂浜の映画館と呼ばれるビーチで野外映画を楽しんだ。ペアで座れるおしゃれなカウチソファで、トロピカルジュースを味わいながらゆったりと鑑賞した。

「夕飯はどうする? レストラン予約できるけど」
映画が終わると匠が聞いた。

なんだか胃腸の調子が良くなく、雪音は食べれるか確かめるようにお腹を撫でた。異国の食事が合わないわけではなさそうだが。
「実はあまりお腹が空いてなくて……」

レストランで料理を残すのも申し訳ないので、ヴィラで作ってもらった方が良さそうだ。
「わかった。俺もつまむ程度で大丈夫だから、今夜はフルーツやサラダを用意してもらおうか」
「うん」
手を繋ぎ、迎えの車との待ち合わせ場所まで散歩がてら歩いた。

「手があったかいな」
「そう? なんだか寝ても寝ても眠いんだよね。そのせいかも」
心配性な匠を安心させるべく何でもないと明るく伝えたつもりが、半歩前を歩いていた匠はハッとした様子で立ち止まり振り返った。

「雪音……それ、もしかして妊娠してないか?」
「……え?」

確かに、結婚式前あたりから胃の調子が良くないが、軽いストレスだと思っていたし、何より……
「あの、でも式の前に生理あったの……」

今月も妊娠していなかったと、期待した分残念に感じていた。
ぬか喜びはさせたくないので、慌てて否定する。
匠は少し考え、慎重に質問した。

「出血量は? いつもと変わらなかった?」
「……いつもより出血は少量だったかな。少し早かったしすぐ終わっちゃったけど」

「それ、着床出血の可能性はないか?」
「言われてみれば……」
可能性はゼロではなくて、急に期待が膨らむ。
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