女嫌いな心臓外科医の契約妻になりました
緊張や環境の変化で、月経不純は何度も経験していたから疑いもしなかった。

「思い違いならそれでいいんだ。でももしそうなら、気をつけた方が良いこともあるだろ。だから簡易検査をしてみないか」
匠が落ち着きない様子で手を握る。雪音も興奮気味にコクコクと頷き、ふたりで薬局へ急いだ。

検査薬は日本と同じスティックタイプのものがあり、ヴィラに戻るとすぐに検査をする。
テーブルに置き、判定が出るのをふたりで手を握って待った。一分もすると、判定ラインと終了のラインにうっすら色が付く。

「陽性だ……」
匠が呟いた。少し声が震えて、それでいて感動しているようだった。

「家族が出来たの……?」
言葉にできない喜びが、胸いっぱいに広がった。
この日をどれだけ待ち侘びたか。じわり、涙が浮かぶ。

お腹を触ってもまだ何もわからないのに、ここにいるよと体の奥が熱を持った気がした。

「やった……やったな! 俺たちの子だ!」
匠が満面の笑みで抱きしめると、雪音も負けじとぎゅうぎゅうと抱きしめ返す。

「匠さん……」
「本当に、間違いじゃないな」
匠は興奮の面持ちで、雪音のお腹と検査薬を交互に見た。

「匠さんに恋をしてから、毎日が本当に幸せ。ありがとう」
泣き笑いで言うと、匠が滲む涙を拭ってくれる。

「俺もだ。雪音への気持ちを知った時からずっと心が満出されている。どうしてもっと早くこの気持ちを知っていなかったんだと後悔するほど、愛しているよ」
軽く唇を触れ合わせ、顔を見合わせて笑う。

「そうだ、雪音はしっかり栄養をとらないと。ここのところ食欲がなかったから滋養のあるものをシェフに頼もう。今日は歩きすぎていないか? 足をマッサージしようか」
冷静沈着な匠の慌てようがなんだかおかしかった。

「いつも通りで大丈夫。そっか、最近胃が変だったのも、眠いのも妊娠の初期症状だったんだ……」
「日本へ戻ったら、すぐ産科を受診しような」
「うん」
「ああ、なんで俺産科じゃなくて外科を専攻したんだろう。知識が足りなすぎる」

頼れるスーパードクター深沢先生でも、専門分野以外はあまり得意ではなさそうだ。心底残念そうに言うので、雪音は可笑しくて声を上げて笑った。
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