女嫌いな心臓外科医の契約妻になりました
それまでカルテを記入しながらやり取りを聞いていた匠が、虚をつかれたような顔をした。
「時間がないか?」
「いえ。昨夕から夜勤だったんです。午前中に帰れなくてズルズル勤務していただけなので、もう終わるつもりでした」
さらっと言うので面食らう。二十四時間以上寝ていないじゃないか。
いつものことながら働きすぎだ。困った時の深沢先生と密かに言われているだけあり、いつだって呼べば応えてくれるのはありがたいけれど、自分の体も大事にしてほしい。
秀夫もだが、匠も患者大優先。自分を顧みないので心配になる。
「じゃあいいだろう。これ俺の大好物でお勧めなんだよ。食べていきなさい」
病室の隅に立てかけてあったパイプ椅子を出すと、四人で食べることになった。
思ってもいなかった展開に、妙に匠を意識してしまい動きがロボットのようにぎこちなくなった。
「やっぱり松江フルーツの果物は美味しいわ」
真弓はが頬を抑えながら味わう。
冬限定の柑橘ミックスゼリー。
はっさくのさっぱりしたジュレに、ナタデココのような食感の、少し硬めのみかん味のゼリーがコロコロと入っている。上にはデコポンとポンカンがふんだんに飾られ甘さすっきりでさっぱりと食せ、秀夫も頬を綻ばせて食べていた。
雪音はせっかく買ったというのに、緊張のせいか味がよくわからずもそもそと口に含みゆっくりと噛みしめた。
「有名なのは知っていましたが初めて食べました。これは美味しいですね」
匠は疲れているだろうに、嫌な顔をせず一緒に食べてくれている。
白衣でパイプ椅子に座っているだけなのに、高級ホテルにいるかのように上品に見えた。
「だろう?」
秀夫が得意げに言った。
「ですが、食べすぎは注意です。ゼリーには糖質が多く含まれている場合があります。あと、グレープフルーツにも気をつけてください。お出ししている薬と相性が悪い。グレープフルーツの成分が代謝を阻害して、副作用が強く出る可能性があります」
匠が生真面目に返すと、普段先輩であるはずの秀夫が急に威厳がなくなったように背中を丸めた。
「匠君は厳しいな……」
「主治医ですから。言うことを聞いてくださいね」
匠はにっこりと笑っているが、妙に迫力があった。秀夫は匠をじとっと睨む。
「ふふっ」
そのふたりの様子がなんだかおかしくて思わず笑ってしまうと、秀夫は「お」と以外そうな顔をし、真弓からは「まぁ」と期待の目で見られた。
男性が近くに居るのにリラックスできているのは自分でも驚いているが、
でも……決してふたりが期待するような仲にはなれない。
今日はふたりも一緒に居るし、匠は秀夫が目をかけている人で、雪音は以前から顔見知りであり、同僚でもある。仕事中の彼の人となりとも知っているから、多少安心できるだけであって……。
気づけば必死に心の中で言い訳をしていて、一体何に慌てているのかとふと冷静さを取り戻した。
先ほどの会話のせいだ。これまで雪音に気を使って異性関係の話などしたことなかったのに、ふたりの本音を聞いてしまったせいか恐怖とは違う緊張があった。
「時間がないか?」
「いえ。昨夕から夜勤だったんです。午前中に帰れなくてズルズル勤務していただけなので、もう終わるつもりでした」
さらっと言うので面食らう。二十四時間以上寝ていないじゃないか。
いつものことながら働きすぎだ。困った時の深沢先生と密かに言われているだけあり、いつだって呼べば応えてくれるのはありがたいけれど、自分の体も大事にしてほしい。
秀夫もだが、匠も患者大優先。自分を顧みないので心配になる。
「じゃあいいだろう。これ俺の大好物でお勧めなんだよ。食べていきなさい」
病室の隅に立てかけてあったパイプ椅子を出すと、四人で食べることになった。
思ってもいなかった展開に、妙に匠を意識してしまい動きがロボットのようにぎこちなくなった。
「やっぱり松江フルーツの果物は美味しいわ」
真弓はが頬を抑えながら味わう。
冬限定の柑橘ミックスゼリー。
はっさくのさっぱりしたジュレに、ナタデココのような食感の、少し硬めのみかん味のゼリーがコロコロと入っている。上にはデコポンとポンカンがふんだんに飾られ甘さすっきりでさっぱりと食せ、秀夫も頬を綻ばせて食べていた。
雪音はせっかく買ったというのに、緊張のせいか味がよくわからずもそもそと口に含みゆっくりと噛みしめた。
「有名なのは知っていましたが初めて食べました。これは美味しいですね」
匠は疲れているだろうに、嫌な顔をせず一緒に食べてくれている。
白衣でパイプ椅子に座っているだけなのに、高級ホテルにいるかのように上品に見えた。
「だろう?」
秀夫が得意げに言った。
「ですが、食べすぎは注意です。ゼリーには糖質が多く含まれている場合があります。あと、グレープフルーツにも気をつけてください。お出ししている薬と相性が悪い。グレープフルーツの成分が代謝を阻害して、副作用が強く出る可能性があります」
匠が生真面目に返すと、普段先輩であるはずの秀夫が急に威厳がなくなったように背中を丸めた。
「匠君は厳しいな……」
「主治医ですから。言うことを聞いてくださいね」
匠はにっこりと笑っているが、妙に迫力があった。秀夫は匠をじとっと睨む。
「ふふっ」
そのふたりの様子がなんだかおかしくて思わず笑ってしまうと、秀夫は「お」と以外そうな顔をし、真弓からは「まぁ」と期待の目で見られた。
男性が近くに居るのにリラックスできているのは自分でも驚いているが、
でも……決してふたりが期待するような仲にはなれない。
今日はふたりも一緒に居るし、匠は秀夫が目をかけている人で、雪音は以前から顔見知りであり、同僚でもある。仕事中の彼の人となりとも知っているから、多少安心できるだけであって……。
気づけば必死に心の中で言い訳をしていて、一体何に慌てているのかとふと冷静さを取り戻した。
先ほどの会話のせいだ。これまで雪音に気を使って異性関係の話などしたことなかったのに、ふたりの本音を聞いてしまったせいか恐怖とは違う緊張があった。