チョコレートフォンデュ
空虚な心
私はベンツやBMWが嫌いだ。
そんなもんに乗ってる空かした男がもっと嫌いだ。
でも、本当に嫌いなのは、そんな奴らが運転するその助手席に、笑顔で座っている自分だった。


毎週土曜日の昼過ぎに待ち合わせ。待ち合わせ場所は私の家の前。
いつも豊が自慢のBMで迎えに来る。

私の小さな城はマンションの五階に位置し、そこからは少し先の、ヒルズ公園が見え、今の季節は公園を取り囲むような桜が一望できる。

そんな小さな幸せを感じれる場所なのだ。自分の部屋、ではなく、自分の城と言ってもちっともおかしくはないと思う。

ここに越してきてまだ半年だが、ヒルズ公園が六本木ヒルズよりも先にあった事は確かだ。公園にある遊具やベンチ、植木などは誰かの手によって常に整えられてはいるが、その年季の入り様は、誰の目にも分かる程だ。


豊の鳴らすクラクションが聞こえ、私は先日の誕生日に友達に貰った春コートを羽織って出た。

エレベーターで鉢合わせた六階に住む小川さんに、杏ちゃんそのコート似合ってるわと言われ、ありがとうございます。と言って微笑んだ。

小川さんは、ちょっと年配だけど、いつも私を見かける度に服装や髪型を褒めてくれる。
私が今19歳で一人暮らしと知ると、たまに煮物などを、多く作り過ぎちゃったから。と、ついでを装いお裾分けしてくれる。 でも、正直、そんなに多く作り過ぎる事なんてないって思う。だって、毎日自分の家族分の食事を作っているわけだから、作る量なんて分かりきっていると思うのだ。小川さんの優しさは私を癒してくれる。ヒルズ公園の桜と同じ。







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