買われた花嫁
 彼から好意を感じたかと思えば、もののように扱われ、またこんなふうに家族だと温かい感情を与えられる。

 ……きっと私は、もう彼を心のやわらかい場所に触れさせてしまった。

 だから一円でも売るなどという暴言に傷つき、揺らいでいる。

「……紗代」

 車が止まっているのをいいことに、蓮司さんが私のほうを向く。

「誰がなにを言おうと、君を手放すつもりはない」

 ハンドルを離れた手が私の顎を捉えた。

「君は世界で一番嫌いな男に愛され続けるんだ。……永遠に」

 身体の芯を痺れさせる危険なささやきに抗えず、キスを許してしまう。

 愛なんてわからない。

 彼が私に向けるこの熱が本当に愛と呼べるものなのかどうかも。

 そしてキスを受けて甘く心が震えたことを、愛と呼ぶのかもわからなかった。
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