世界一嫌いな男に妻として買われたら、容赦ない溺愛で堕とされました
 話はそれだけだったようで、忙しそうに自室へ戻ってしまう。

 ――妻としての私が必要なら、もう少しだけ一緒にいてほしい。

 そんな気持ちを呑み込み、遠ざかる後ろ姿を見つめた。

 言えないまま扉が閉じる瞬間まで目で追い、ふうっと息を吐いて姿勢を元に戻す。

 ――必要なのは〝私〟じゃなくて〝妻〟だ。それも九条という上流階級へのチケットを持った名前の。

 求められているのは私であって私ではない。それが、悲しい。



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