Re:Romance
テーブルにつけていた頬をゆっくり離せば、たった一粒、涙の雫が残されていた。
指で私の目尻を拭ってくれた実来君。指の感触が甘い。私の落ちてくる一、二本の髪を耳にかけてくれる。
「泣くほど嬉しいですか。」
「なんで、人んちで告白してくんの。」
「顔見たらすぐに言おうって決めてました。例え人のうちで酔っ払っているすっぴんの顔だとしても。」
「その勇気に、感謝します。」
震える声で感謝の意を伝えれば、じっと至近距離で見つめてくるからキスされるのかと身構えた。
「俺のうちで告白される俺の心境もちゃんと考えてね?」
私と実来君の間に割り入るのは、水の入ったワイングラスだった。
「酔いを覚ましなさい、二人とも。」
玲さんにグラスを渡されて、繊細な薄さのガラスを両手で包むようにして飲んだ。
カルキのない柔らかい味の水は、いまだじっと見てくる実来君のせいで一口しか飲めなかった。
「五智川さん、なんであの先輩の表紙、わざわざパネルにしてまで飾ってるんです?」
実来君が壁に飾られている私のファブリックパネルに気付いて、その近くまで見に行く。自分の演じている写真を見られるのは恥ずかしい。
「それ、一番いいと思った写真だからだよ。その表情最高じゃない?」
半ば自慢気に、鼻につく笑顔を見せる玲さん。でも実来君は腕を組み、シラけた顔つきで私のパネルを見ている。
あ、絶対私をバカにしてる。
実来君に何言われるのかと期待していれば。
実来君が深いため息を吐いてから、玲さんの方にゆっくり真顔を向けた。
「20☓☓年11月号、テーマは『幸と不幸を纏う女』。衣装は一流ブランドのもので、本来背中には編み上げ用の細いリボンがついているはずだったものを、先輩仕様で編み上げのない衣装にわざわざ作り替えるほどこの表紙は編集部総力を上げて撮影された。」
「………」
「確かに叶恵リカは『RUNRU』モデルの中でも一番人気で大人の女性という立ち位置ではあったものの、演技力は今ひとつだからこの表紙はいいとはいえない、というのが僕の意見です。」
「………」
ねえ。どこのプロデューサーよ?
さっきまで笑顔だった玲さんも、珍しく冷めた目で実来君を静観している。やべえなコイツって顔で。