Re:Romance


「日比野芽衣のこと、あれ、俺の婚約者。」

「うん。玲さんから聞いた。」

「全部、俺のせいで里夏にとばっちりがいって。ほんとごめん。」

「……ううん。香椎のせいじゃないよ。」          

「後のことは全部俺がなんとかするから。安心してお前は休んでて。」

「……ありがとう。」


 別に香椎のせいじゃない。そこまで香椎に執着する日比野さんと、上手く立ち回れない自分のせいだ。


 でも実来君は納得できないようで、私を怪訝そうに見てくる。

  
「里夏先輩ってほんとお人好しですよね。」

「でも、結局香椎の方がずっと被害被るわけじゃん。」
 
「は?」
 
「後処理も日比野さんとの話し合いも。それでさらに会社とご両親への配慮も考えて行動しなきゃなんないんだから。」

「それは香椎課長への忖度ですか? それとも元彼への未練?」


 私が「ただ母性が溢れてるから。(いい女風)」と伝えれば、実来君が「曖昧だな。」と呟いた。ふてくされたのか、窓の外を見始めた。


「知ってる?俺は里夏の母性に惚れてるの。」
     
「は、はあ?」


 ミラー越しにふっと口角を上げる香椎。適当に母性を出してみただけなのに。拾われると思わず、上手く笑顔で返せない。

 
「それを、俺が守らなきゃってずっと思ってきたのに。ごめん。なんの罪もないお前を傷つけた。」

「……な…」

「お前のピンチに、助けてやれなくてごめん。」

「………」

「海外出張なんかに行ってごめん。」

「………っ」

「すぐ手の届かない場所にいて、ごめん。」


 そんなことで謝ってほしくはないけれど。


助けを求めたくとも、求められなかったあの時の自分の気持ちが、溢れ出す。


 わけも分からず自分の所為にされて、勝手に私情で理屈を決めつけられて。


 本当は助けてほしかった。


 七光りを持つ香椎に縋りついて、「なんで私ばっかなの?」って。何も悪くない香椎の胸を叩いて文句を言ってやりたかった。


 でも香椎は私にとっての上司であり、友人であり、頼れる兄であって。どれだけ考えてみてもそれを越えることはないんだ。


 私には実来君がいて、香椎には婚約者がいる。


 何度も私にキスをしてきた香椎の気持ちに見て見ぬふりをしてきた私。自分の残酷さにも罪悪感にも向き合わず。応えもしなかった。


「ごめ……ごめんね、寿佐……」


 とめどなく溢れる涙は、私の手の甲だけでは間に合わない。


 ただ謝ることしか出来ない私に、香椎が何も言わず、ただミラーの中にいる私を見て笑った。



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