Re:Romance


「復讐で縛り付けて、身体を求めた僕って。最低じゃないですか?」

「最低です。」

「ですよね。」

「んっ」


 私の唇の粘液を吸うようにキスをする実来君。唇の端から端までを押し付けて、柔らかく跳ねる彼の唇。


「彼女なんて、いなかったんです。」

「……え?」        
 
「……高校の時、島咲は、彼女でもなんでもなくて。」

「………」

「一方的に好かれていただけで……」


 そこまで遡る話を出されるとは思わず、“島咲”という名前を過去から掘り起こした。


 二つ縛りの、真面目そうな女の子が浮かび上がる。


『お願いです!わたしの居場所、取らないで下さい!』
『わたしには、実来君しかいないんです!』


 懸命に訴える彼女の瞳は、確かに孤独を恐れていた。
 

 彼女の孤独を無下に出来なかった私。自分の気持ちに嘘をついて、弱い私は悪役になった。あの時の想い―――――


「ただ、僕が先輩を引き止めるためについた、嘘なんです。」


 ――――嘘?


「それをずっと、復讐と偽って。今の今まで先輩を抱くために……ついていた嘘、なんです。」


 実来君の揺らぐ蒼碧は、動揺という二文字を知らないのか。
 

 『好き』よりもずっと重たい告白を受けた私に、実来君は平然と私にキスをするのだ。玲さんよりもずっとたちが悪い。


「待っ、」

「きっと、あの時のことを嘘だと伝えたら嫌われるだろうと思って。だから僕は今のうちにキスをしてるんです。」

「んッ」


 今度は唇を舌でこじ開けられて、隙間から舌を侵入される。


 実来君はどうしたって私を支配下に置きたいらしい。

 
 涙ながらに振ったあの時の私の気持ち。どうしてくれるんだ――――    
     
     
 唇を離した実来君が、再び私を見下ろす。ゆっくりとした瞬きで視線を落とす。再び見据える瞳が、ほんのわずか。弱さをひた隠しにしようと震える。


「どうしても、あなたを僕のものにしたかった。」

「な、」    
 
「どんなに卑怯な手を使っても、あなた自身をも騙すくらいに、好きなんです。」


 瞳に連動するように、実来君のまつ毛が揺れる。長いまつ毛から覗く強がりな蒼碧は、叶恵里夏を囚えて離さないのだ。



「……僕のこと、まだ好き?」


 最低よりも狡いよりも下の言葉が見つからない。


 この男……最低で狡くって、それ以上に最低で。それでいて、かわいい。超かわいい。

 
 一発殴ってやろうと思っていた私の気持ちは、大気中の窒素にかき消された。


 だって、いつも冷静で美しい実来君が、こんなにも狂おしいほどの表情で私を見るから。 

     
 美少年に告げられる歪な言葉は、この世の何よりもかわいかった。


 今の実来君は愛おしすぎる。





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