Re:Romance
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 火曜日、眼鏡はなし、ベージュブラウンの長い髪をストレートになびかせ出勤した。冬に近づくこの時期。木枯らしにはまだ早い風が、私の背中を後押しする。 


 しかしなぜかしら。新車部の営業どもにはなぜか歓迎されるような声を掛けられて拍子抜けだ。


「叶恵さん?! なんでも冤罪で大変だったらしいね!」
「これから中古車部の人手が足りない時は遠慮なく俺に言ってね!」


 てっきり嫌味の一つでも言われるものだと思っていたから、こっちが思いっきり身構えてしまう。

    
 
「叶恵せんぱぁああ〜いい!!」


 中古車部の事務室に入れば、すぐに高市さんに抱きつかれた。デスクの上の惨状には目も当てられず、とりあえず私も高市さんを抱きしめ返した。


「先輩……なんでいきなり眼鏡なしで髪ほどいてきてるんです?」 

「え?」

「あれですか、謹慎明けデビューってやつですか?! そうやって男の目をかっさらおうとするやり口、私反対です!」

「え、ええー……」


 上下関係皆無の高市さんは、目の下のクマは目立つものの元気そうだ。心晴君から聞いた通り、木叉さんといい感じだというのは本当らしい。




 午前中、新車部の会議室に呼ばれた私は、再び役職者の揃う空間で胃腸を悪くした。


 しかし今回は新車部課長の香椎寿佐がいる。


 日比野さんの隠蔽工作を手伝えとでもいうつもりか。


「叶恵さん。何の罪もない君に責任を負わせようとしてしまったこと、心からお詫びする。」


 席にも座らず、立ったままの状態で役職者に頭を下げられた。濱部課長だけ皆よりも頭一つ分浅い下げ方で気に食わない。


 本社の人間はいないところをみると、うちの店舗だけで内々に片付けろとでも言われたのだろうか。なんにせよ橋田部長も、七光りを持つ香椎には勝てないということなのだろう。

           
 ほんの5分ほどの謝罪会見が終わり、緊張も解けぬまま会議室を出た。でも階段を下りようとしたところで大きな手に引かれ、引き戻される。


 そのままフロアの奥にある、会議室用の給湯室まで連れて行かれた。


「お嬢さん、実来君との熱い夜はいかがでした?」


 暗い給湯室の中。奥の壁に押し付けられて、チャラい男に包囲される。


「香椎。」


 雑な性格な癖に、身なりだけはいつも整えている香椎。顔色も良く、全く疲れをみせない男がスーツのポケットから眼鏡を取り出し、私の手に渡してきた。


「ほい、五智川の家で拾った。」
「ああ。ありがとう。」
「ん。」


 目を細め、私に優しい笑顔を見せて。給湯室から出ていこうとした。本当に眼鏡を渡す用事だけだったらしい。




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