Re:Romance

 目の前に座る実来君が綺麗な瞳で私を睨んで、弁当の蓋を閉めて包みを締め始める。そして私の方へと寄せてきた。どうやら受け取ってはもらえないらしい。交渉決裂だ。  


「先輩、誠意ってご存知ですか。」

「はい。なんとなく。」


 方向性を間違えた節操のない元ヤリマンは、上目遣いで実来君に応戦するも、素早く「ウザい」とカットされてしまった。M欲を煽られた私を今すぐ殺ってくれ。


 そんな私の誠意が伝わらない謝罪をしていると、休憩室にもっと節操のない輩が現れた。


「ああ、里……叶恵。これ、こないだ言ってた中古車リストな。」 


 香椎が数枚の用紙を手にし、私の元にやってくる。メールでくれればいいのに。と思い香椎を怪訝に見つめると、目の前にバサリと用紙を置かれた。


 エクセルの枠に収めもしない車種、年式、店頭価格が載る雑な中古車リスト。

 また新たな仕事? と思っている数瞬も待てないのだろうか、色欲魔が机の下でちょっかいをかけてくる。


 多分、香椎が来るほんの数秒前からだったと思う。目の前に座る実来君の足が、私の足をさすっている。


靴を脱いだ靴下の感触。オフィス用サンダルで露わになる私の足首から足の甲を、いったりきたり。


靴下の癖に、中で器用に足の指をばらけさせているのが分かる。


「な、んの……リスト、ですか?」

 
 自分の、途切れてしまう言葉が憎い。


 たかが美少年に、たかが足の指に惑わされる節操のない私。香椎の顔が、見れない。


「ほら、この間朋政(コアラ)が言ってたオーストラリア輸出500台の件。そのうちの300台は俺が抑えといたから。」

「え、300台も?!」

「ま、実際の価格は朋政と商談次第だけどな。」


 まだ朋政さんとの話は先週のことだ。


それが週が開けたばかりの今日までに、すでに半分以上も確保したというのか、やるじゃん香椎課長様。


「す、すごくない?」

「俺だもん。」

「そ、っか。」

「って納得すんなよ。他店の在庫かき集めただけだって。」
 

 あ、会社では敬語を貫いていたのに。驚きすぎて素がでちゃった。


「なあ、どうした?なんか体調悪い?」

「え?」

「いつものお前じゃないわ。」
 

 香椎が、私の頬に手の甲を添える。


熱を帯びているのが香椎にバレバレで。でもね、この火照りはあんたのせいじゃないんだわ。


「あんま無理すんなよ?お前がしおらしく仕事してても誰も喜びゃしねえって。」


 香椎が私の肩を軽く叩いて。実来君に一瞥を投げる。

  
 気のせいだろうか。それを咎めるかのように、実来君の足が私のふくらはぎをやんわりと這う。彼の蒼碧の瞳は、恐らく執拗なほど私に注がれていることだろう。


 全身が、いや内部がゆらぐ。羞恥と屈辱のコンボを与える実来心晴の足が、すねに沿って優艶に描く。初めて彼とセックスした時よりも恥ずかしく思うのは、すぐ傍に香椎がいるせいか。


緊張も伴って実来君の方を見れないけれど、そうちらつく視界が雰囲気で感じ取れと私の脳に命を下す。


 うちの事務員は専用の制服のため、膝丈のタイトスカートを履いている。ストッキング越しとはいえ、変な気分になるのはアナフィラキシーのせいだろうか。


 この男。そうまで私を辱めて愉しいか。




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