Re:Romance

「実来君!ここにいたんだ!」 


 その可愛らしい呼び声で我に返れば、思わず実来君と目が合ってしまった。馬鹿にしたように目と唇で笑われ、すぐに入口にいる呼び声へと視線を移す。
 

 休憩室のスライドドアから顔を出すのは、女整備士の真田静久《さなだしずく》(26)だ。私とは対照的な身体つきで、整備士特有のつなぎからでも分かるほどグラマラスだ。


「事故修理頼まれてた分、全部終わったんだけど、保険会社に連絡した方がいいのか直接お客さんに連絡した方がいいのか分からなくって。」

「ああ、多分それぞれ要望が違う。3件だっけ。」

「うん、一つは社用車。」

「あー、あの会社かあ。僕から連絡しとく。」

「えー、いいの?」

「ってそのつもりで僕を呼びにきたんだろ?」

「うん!」

 
 二人が休憩室から出ていき、廊下からは真田静久の楽しそうな笑い声が聞こえてくる。休憩中はいつもくるりと巻いた髪をほどいて、つなぎ姿で女を振りまく女。


恐らく、実来心晴を狙っている。か、すでにできている。


 もっと男臭い男選べよ。と思うが、真田さんは女の私から見てもいい女だ。魅力が溢れ出ている。

  
あんな風に実来君とタメ口で仲良くしている姿は実に微笑ましく、羨ましい。


 実来君がうちに異動してきたのはまだ3年前のことなのに、誰がどう見ても距離感に違和感を感じる。


営業職と技術職は違う畑だけど、同い年とあってか、研修で何度か顔を合わせていたらしい。


「あの二人、マジで付き合う5秒前って感じじゃね?」


 香椎が、床にギギッと引きずる音を鳴らし椅子を引く。隣に座るなり、私を下から煽るように見る。


「もしかしたら、もう付き合ってんじゃない?」


 もう崖から飛び降りた女からは口惜しみも出やしないよ。 


 本当に付き合ってたら、真田さんに私との浮気現場の画像でも提示してやろうかなとは思ってますけど?


「さすがに付き合ってたらお前との関係を断ち切るだろ。実来心晴だぞ?」

「真面目君だから浮気はしないって言いたいの?」
 
「同じ店舗の中ではさすがに浮気できんだろー。他の店舗ならまだしもさあ。」

「そういう意味かい。」

  
 同じ店舗だって浮気を浮気と思わないサイコパスならできるはず。でも私の知る実来心晴はサイコパスでは、ない。   


ちょっと自信がない。だってさっきまで私の脚を足で撫でてきたし、ゲームでセックスをする男だしな。ずーんってなった。

 
「お前もうかうかしてると実来を取られちまうぞ?」
 
「いや、取られるもなにも。私には関係ないし」

「俺もつなぎ着たグラマラスな女整備士に奪われてえ。」

「具体的で分かりやすいな。」


 具体的願望を公言する香椎が、私の前に置かれた弁当に勝手に手をつける。


 で、勝手に包みを開けるからこの男のデリカシーを問いたい。





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