Re:Romance
香椎が弁当の蓋を開ければ、体よく苦笑を誘った。爆笑はかっさらえなかったのが悔しい。
「ふはっ、なんだよこれ。うけるわ。」
「なかなかにいいアイディアだと思ったんだけど。受け取ってもらえなくて。」
「いや俺は嫌いじゃないわ、こういうの。」
海苔で書いた『ヤリ逃げしてごめんネ。』の“め”の部分をカットするのがほんと大変だった。キャラ弁用カッター使ってまでやる必要性はあったのか。もう単なる自己満だ。
香椎が弁当に添えられた割り箸を割って、私に渡してきた。
「この海苔弁、食べさせてよ。」
「は?」
「謝罪海苔文が乗った飯の部分でいいから。」
その飯の部分が一番苦労したんだってば。
私があえて豚肉のかんぴょう巻を箸でつかもうとする。しかし机に肘をつく香椎が、じっと私を見つめてくる。
「なに?」
眼鏡越しに見る香椎は、黙っていればいい男だと思う。背が高くて背中は広いし男っぽい。それでいて、今私が断られた弁当を食べようともしてくれる。
正直いって中古車300台確保してきてくれたより嬉しいかもしれない。実来君には誠意がないと思われても、私なりに誠心誠意込めて作った弁当だ。
朝4時半起きの渾身の傑作だと、私が伝えなくとも香椎は勝手に汲み取ってくれる。ああそうだ、私はこの、ひけらかさない優しさが好きだった。
なんとなく照れ臭くなり、香椎の瞳から反らす。
「キスしてくれたら、残りの200台も俺が抑えてやる。」
「へ?」
「って言ったら、里夏は香椎寿佐にキスする?」
このスパイラルパーマは私の心をスパイラルにするつもりか。元カレが今カノでなくともキスを欲するのはどういった現象なのか。まだセックスを求められる方が腑に落ちる。
「はあ?」
「200台の等価が元カレとのキスよ?」
「キスって、ちゅっと?」
「ちゅっとちょっと。」
「キス一つで、200台確保か〜……」
「悩ましげだねえ里夏ちゅあん。」
「まじで?キスするだけでいいの?」
「そだよ。香椎、ウソつかない。」
いや内心ほんとスパイラルだよ新車部の課長。新車売ってるのになんで中古車300台も確保してくれたの?
「いやーナイナイ。」なんて手を振りながら香椎を見れば、あれ? いつの間に。
香椎が実来君になっていた。